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拠点確保

 迷彩服に着替えた二人が戻って来た時、オズは眉間に皺を寄せて考え込んでいた。


「オズ君、難しい顔してどうしたの?」


 尋ねたリカにオズが答える。


「さっき異世界チートの話が出たじゃないですか。で、俺にも何かないものかと考えてみたわけです」

「どうだった?」

「身体能力は変わらず、と思うんだけど手足がなくなってるんで日本での状態に比べたら八割減か九割減ってところですかね。仮に多少の向上があってもマイナスをカバーできる気がしません。で、魔力的な何かがないかと探ってみると、どうも体の中に何かありそうな気がする。気がするんだけど良く分からないわけです」

「なるほどねえ。少し落ち着いたらあたしも試してみよう。でも、その前に落ち着けるところを探さないとね」

「オズ君、これ、杖にならないかしら?」


 タカコが二メートル弱の棒を手渡した。直径は五センチほどで、多少湾曲しているがほぼ真っ直ぐと言っても良い。


「ありがとうございます、ぱっと見いけそうですね。試してみますので立たせてもらえますか?」


 タカコに左手を引かれ、リカに後ろから抱き上げられて立ち上がったオズ。残された左脚と左手に持った杖で体を支えてみる。


「立てます。けど、立ってるだけで脇腹から腿のあたりまでプルプルするし左手の負担もハンパねーです。杖を前に出すタイミングも良く分からない。……正直歩ける気がしません」

「ま、しょうがないね。暫くはあたしが肩を貸すよ。タカコさんよりあたしの方が背が高いから」

「さ、日が落ちる前にキャンプできるところを探しましょう。食べられそうな物があったら採っておくのを忘れないでね」


 タカコの言葉に頷く二人。




「これはちょっと想定外だったわね……」

「確かに」

「風情がありますねえ」


 立ち竦む三人の前の岩場には湯気を立てている小さな泉がある。直径は四メートル程で溢れたお湯が一箇所から川のように流れ出している。

 水源を探して数時間。水音を聞きつけて歩いてきた先にあったものが温泉とは予想外にも程があった。


「飲めれば水はオーケー。ついでにお風呂も付いてくるってところね。温度はどのくらいかしら。四十度前後だと助かるんだけど」

「試してみないと何ともですね。……俺をそばに連れて行ってください。杖を突っ込んでみます」


 二人に支えられて温泉のほとりまで歩いたオズは杖の先端をお湯に暫く浸け、引き揚げてから触ってみる。


「そんなに熱くなってないですね。変な臭いもしないし大丈夫じゃないですかね。深さはっと……」


 杖を数箇所に差し込んで水深を確認する。


「杖が届く範囲では浅いところで三十センチ、深いところは一メートルって感じですね」

「どれどれ」


 言いながらゆっくり手をかざしてみるタカコ。


「少なくとも熱湯じゃあないわね。……ん、適温。変な味もしない。暫く様子をみて私の調子がおかしくならなければ水場確保ってことで」


 温泉に浸した指先を舐めたタカコが笑う。


「……随分思い切った人体実験ですね」

「普通の川でも池でも飲んでみないと分からないもの。誰が飲むかでしかないわ。じゃあ、雨風を凌げるところ探してくるわね。二人はここで待ってて」

「いやいや、リカさんと一緒に行ってください。それこそさっきの水で何かあったら大変です。俺はここで留守番してるので大丈夫です。あ、あそこに座らせてください」

「そう? じゃあ荷物は置いていくからよろしくね。……リカちゃん、行きましょう」

「分かりました」

「迷子にならないでくださいよ」


 程良い高さの岩に座らせたオズをおいて二人は岩場の裏に回っていった。

 ……と思ったらものの数分で帰ってくる。


「どうしたんですか?」


 尋ねたオズに苦笑いしながらタカコが答える。


「すぐ裏に岩の裂け目があって、中に入れるの。そんなに深くなくて中に変な動物もいなそうだから拠点確保」

「ラッキーというか拍子抜けというか……」


 荷物を手に取ったリカが笑っている。


「先に荷物を持って行っちゃうから、その後でオズ君もね」

「了解でーす」






 洞穴は入り口は狭いが中は徐々に広がり、奥で収束している。三人が居住するには十分な広さがあった。光が射すのは入り口周辺だけだが目が慣れれば奥も見通すことはできる。恐らく日が落ちれば真っ暗になるだろうが、それは外も変わらないので特に問題はない。

 地面が湿った土だけではなく、あまり凹凸のない平坦な岩場があるのもありがたい。


「ちょっとしたアパート並みの広さがあるわね」

「リビングダイニング十二畳、バストイレキッチンなしってところかしら?」

「それは倉庫って言うんですよ」


 口々に感想を言う三人。水と住居が確保できたためか表情は明るい。最低限必要な水、食料、住居の三要素の内、二つまでがその日の内に見つかったのは幸運と言う外はない。


「今日のところはこれで休んで、明日から食糧を探さないとね。それとここの快適化に取り掛かりましょう」

「そうですね。ご飯にしようか。……レーションを一箱開けます。明日からは節約しないとだけど、初日から頑張り過ぎるのはやめましょう」

「汗もかいたしお風呂に入りたいけど明日まで我慢ね。明日の朝、私の調子がおかしくなければ入っても大丈夫と判断して良いと思うわ。水中りは何日もたってからってことはないと思うもの。毒は良く分からないから同じで考えましょ」

「……分かりました」




 コンバットレーションの箱を開けると中にはレトルトのご飯、カレーやハンバーグのパックの他に使い捨ての食器や加熱剤まで入っていた。

 早速温めて食べ始める三人。日常の食事よりもおいしく感じられるのはキャンプのカレー効果か。


「すげえ、旨いっす。温かいメシ最高! レーション馬鹿にできねー」

「あたしも初めて食べるけど、こんなにおいしいとは思わなかったわ」

「そうね。おいしいわ。……オズ君、食べにくそうね。あーんしてあげよっか?」 

「……大変魅力的なんですが、ここで甘えると一人でメシを食うこともできなくなりそうなんで頑張ります」


 葛藤を振り払い、声を絞り出すオズ。それをみてリカもタカコも笑っている。


「食べ終わったら容器はくしゃってしないでください。洗ってまた使います」

「こんなのも今となっては貴重品ですね」

「軽くて割れなくて腐らない。助かるわね」






「大事な話があります」

「改まって何ですか?」


 食事を終え、おもむろに切り出したタカコにリカが聞き返す。オズは左手での食事に悪戦苦闘していたが、ようやく最後のおかずを口に入れることに成功していた。


「それ。敬語をやめて欲しいの。確かに私は二人よりも随分年上だけど、学校でも会社でもないしこんな状況で今までの経験なんて大して役に立たないでしょ? それにね、敬語を使われると物凄く年上感がアピールされてちょっと凹むのよね」

「……あー、何ともコメントしづらいですねー」

「オズ君やり直し」

「…………あー、何ともコメントしづれーなー」

「それで良し。リカちゃんもね」

「分かったわ」


 空き容器を回収し重ねて置いたリカが答える。


「じゃあ、明日からに備えてそろそろ寝よっか」

「んー、今更だけど男と一緒に寝るってどうよ?」

「うん、こう言ったら何だけど、オズ君何かできるの?」

「……触るくらいしかできそうにないです。とても残念です」

「触りたいなら触っても良いから一緒に寝ましょ。体が冷えてもまずいしね」

「ちょっとちょっとタカコさん! 触っても良いっておかしいでしょ!」

「何言ってるのよリカちゃん、あなたも一緒。触られても減るもんでもないし、むしろ増えるかも知れないわよ。仲良く抱き合って寝ましょ。夜にどれくらい冷えるのか分からないのよ。体温の保持をしないと」

「むー、それは確かにそうだけど……、って増えるって何よ増えるって!」

「何って、おっぱい? 大きくなるかもしれないよ?」

「そういう問題じゃない!」

「あら、オズ君のこと嫌い?」

「別に嫌いじゃないけど……」

「ならいいじゃない」

「……」


 左腕にはしっかりと、右腕には遠慮がちに抱きつかれたオズはこんな状況で眠れるわけがないと思っていたが、予想に反しあっという間に眠りに落ちていった。



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