preinstall〈プリインストール〉―独奏―
はじめて見る“光景”だった。
この言葉がこれほどぴったりな景色もないだろう。
なぜなら今、僕の周囲にはほんとうに光しかないのだ。
真っ白な何もない場所。内か外かも不明。
そもそもそんな概念がナンセンスだと感じるほどの、途方も無い広大さだけが実感としてある。
そして“ここ”は、光が世界を埋め尽くしていた。
ここでの光はまるで、星の輝き。
はるか昔に燃え尽きた残光に似てる。
見えていても光の源はない、それと同じ。
無数に煌めく実体のない光。
いや…光自体が原子、そんな感じ。
光は様々な色を発し、好き勝手に煌めいていた。
極彩色の彩り。そのくせ整然としているような、全てが繋がっているような動きで飛び交い、渦巻き、且つ静謐さを感じさせる。
まるで輝く粒子の群れが仕組まれた舞踏を踊っているみたいに。
そこまで認識して、僕は自分の現状も理解した。
どうやら“ここ”では、僕もこれら輝く原子の一粒でしかないらしい。どおりで地面の感触もなければ、手足の感覚もないはずだ。
万華鏡を覗いたみたいに周囲の光は踊り続ける。
魚のようにいくつかの群れを作り、群衆となったたくさんの渦が、この白い世界を塗り替え続けている。
別に同じ色同士が群れとなるわけでもなく、ランダムに集まった斑な粒子の渦が、大小の差こそあれ無限に世界の色を変え続けていた。
白い世界はそれらを包み込むように俯瞰するだけで何も干渉する気は無さそうだ。
ただの器。とてつもなく大きな器だけど。
僕はただそれを見ているだけ。
どれかの群れに加わるでもなく、ただじっと光の群れが織り成すショーを見ているだけの単なる一粒でしかない。
ただそのおかげで全体が見えた。
“ここ”は海だ。
無数の粒子と色彩で蠢く海。
真っ白な空間で、光が波打つだけの単調な世界。
そして僕は、ひとりぼっち。
少しだけ遭難している気分だったけど、なぜだろう…それが僕だという確信的な思いがある。
そう思った時、白い世界と目が合った気がした。
僕全体の感覚がそれを感じた。
睨まれているような感覚を。
僕は当然、世界を睨み返した。