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出会った2人。すれ違う2人。

あなたは音楽のが好きですか?



私は嫌いです。

3年生になって初めての音楽の授業は火曜日の4時間目だった。

私は音楽と相見えるための勇気は春休み前の1件でとっくに失っていたので、保健室でサボることにした。


特に眠くもないし、仮病のために先生には頭痛と言ったが、もちろん頭など痛くはない。なぜなら、保健室に音楽なんてかかっていないのだから。むしろこの場所は学校の中で一番健康になれるような場所だった。



なのに、今日の保健室で過ごす時間は、余りにも長く苦しく、音楽から逃げ続ける自分を責めずにはいられなかった。



苦手な英語の授業よりずっと長く感じた1時間がやっと終わり、教室に行きご飯を食べる。特に私のことを心配するような声はない。同じバスケ部の部員の1人が部活にはこれそうかと聞いてきたくらいだった。



ちょっと保健室から帰ってくるのが遅かったのか、音楽室から他のクラスメイトが帰ってくるのが早かったのか、皆はもう賑やかにご飯を食べている。もちろん、それぞれのグループに分かれて、だ。



出遅れたあげく、朝のグループ分けにも参加していない私は自動的に自分の席で1人で食べることになる。別に1人が残念なわけでも嫌なわけでもなかった。でも、嬉しいわけでもなかった。



食事を始めて数分すると突然うしろから、


「なんでサボったの。」


と、高圧的な声が聞こえてきた。声の主は福島陽子だった。


「せっかく退屈な音楽の授業もあなたの作曲姿が拝めるならちょっとはマシかなって思ってたのに。明らかにサボりだよね。全然調子悪そうに見えなかったし。」


新学年初日と変わらず、ズバズバとものを言う人だな。こういう人はほんとに苦手だ。とか、考えながら誤魔化す方法を探しておどおどしていると、福島陽子は続ける。


「もしかって、あれ、橋本くんは不登校タイプだったりする感じかな。」


『 不登校』という言葉に若干怒りを顕にしそうになったが、これ以上この人と話すのも疲れるだけだと思った。


「不登校キャラではないよ。学校にはちゃんと来るし、音楽以外ではサボったりしない。でもさっきの音楽の授業をサボったのは事実だし、私のことをどう思ってくれてもかまわない。」


私は振り返って、できるだけ顔を無表情にして言った。言葉を発しながら見た福島陽子の顔は、声とは裏腹に、落ち着いた顔つきをしていた。もっとイラついた顔をしているのかと思っていたのだが。


しかし、私が言葉を言い切る直前あたりからか、彼女の顔は深みを帯びた驚きの顔になっていった。私がそんなに変なことを言ったのだろうか。それとも私を見ているようで、私ではない、私の後ろにいる何かに対してその顔を反映させているのだろうか。そんなことを考えているうちに私の無表情は崩れていた。


「あなた、もしかして....音楽を聴くのも嫌いですとか、言い出すんじゃないでしょうね。」


彼女の声はさっきまでとは違う、さらに高圧的で、しかしどこか、私に対してではない言葉のようにも聞こえた。


私がその質問に答えるべきか、答えないべきかを推敲している暇もなく、彼女は舌打ちとともに教室を出て行った。



その日の5時間目、数学の授業を彼女はサボった。

お読みいただきありがとうございます。


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