乱心の兆し。
あなたは音楽が好きですか?
私は大嫌いでした。
数々のピアノコンクール小学生部門で最優秀賞に輝き一躍注目され、
日本音楽コンクールに中学3年生にして出場し、初出場で異例の入賞。
そして、高校1年にして初の最優秀賞を受賞。
そして去年行われた高松国際ピアノコンクールにて最優秀賞。
既に日本トップクラスの実力をもつピアニストとして有名な彼女は取り巻くオーラも普通の高校生とは違っているようだった。
私がその姿をみて動けなかったのは、彼女の美しさに見とれていたわけではない。その美しさをも飲み込むほどのオーラを感じて近寄り辛く感じていたからだ。
これなら誰かに話しかけられるはずもないと、私は納得した。恐らく、手に持つファイルには譜面が入っているのだろう。
今、これだけ真剣に譜面をさらっているのと、彼女の実力から考えて、毎年4月に行われる「ピティナ・ピアノコンペティション」に出場するのだろうか。毎年3万人を超える参加者がいると聞くが、かつての自分にはかなり遠い存在だった。
「なにずっとみているの。」
その糸がピンッと張ったような声に音葉は驚いた。その声は福島陽子のものだった。
「こんなふうにずっとファイルを眺めている私は不思議で変わり者だとでも思っていたのかな。だとしたら正解。私は変わり者だよ。」
「いや、別に...」
「君、名前は?どうせ1年間はおんなじクラスで過ごさないといけないんだし、覚えないとね。」
「私は橋本 音葉。福島陽子さん、だよね。よろしく。」
「橋本 おとは?いま、橋本音葉っていった..よね。」
「言った...けどそれがどうかした?」
「君が、あの橋本 正隆さんの息子さんなのね。」
私は頭の中が真っ白になった。なんであの人の名前が出てきて、なぜ彼女は私とあの人の関係を知っていたのか。私の聞き間違いであって欲しい。しかし、今はっきりと彼女は橋本 正隆と言った。もう何年も直接会っていない私の父親の名前を。
私の父、橋本 正隆は作曲家である。
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