奇怪な女性。
あなたは音楽が好きですか?
私は大嫌いでした。
春休みも明け、今日は4月8日。
始業式の日である。
久しぶりに3人で待ち合わせていく通学路。
当然、綾佳と会うのも久しぶりであった。いつものようにおはようとは言い合う。言い合うのだが、目を合わせることは出来なかった。
幸い、凛には気づかれていないようだったのでそこは安心した。
学校に着くと、校門を入って左側にある体育館の入り口前に多くの生徒が群がっていた。今日は始業式。新しいクラスの発表の日でもある。
私は綾佳と同じクラスになってしまうのでは?という心配は持ち合わせていなかった。以前にも説明したが、この学校では文系理系で2年ころからくっきりとクラス分けをされていたからだ。
今になってこの学校のシステムに感謝するようになるとは思わなかった。
3人はそれぞれで、自分の名前を探してゆく。
私は4組だった。
「凛、クラスどうだった?」
「俺は5組。音葉は?」
「私は4組だったよ。」
「かぁー、惜しいなぁ。これで教室で音葉をからかうことも出来なくなるじゃねーか。」
「まぁ、最後にみんなにからかわれていたのは凛だったがな。」
「そんなことねーよ!」
私もこんなふうに言っているが、正直凛と同じクラスだった去年は楽しかっただけに、今年も一緒だったら良かったのになと思った。思ったが、これを口に出して言ってしまうと、凛は調子に乗るだろうと言わなかった。
「あ、おーい綾佳。綾佳はどうだった?」
「私は去年と一緒、3組だよ。今年もときどき話しに来てよねー。」
「わかってるわかってる、昼休みに音葉と行くよ、な、音葉。」
「え、うん、そうだな。」
できれば行きたくない。そんな思いは私のわがままだ、行かないわけには行かない。そう言い聞かせた。
クラス分け表示を見終わり、3人はそれぞれのクラスに行った。
教室に入るともうそこでは始業日の定番であるかのように、『グループづくり』がされていた。これに乗り遅れると1年間友達がいなくなってしまうと評判のアレである。
3年4組の教室ではぱっと見ただけでもう5つほどのグループができているようだった。
私はそのグループの合間を縫って、黒板の真ん中にある座席表をみた。私の席は真ん中の列の後ろから2番目だった。
また、これもグループの合間を縫ってその席へと向かった。私は友達が少ないというわけではないと思っているが、このようにたくさんの人数と話すのは苦手なのだ。2、3人で話すのがちょうどよく、心地よい。
私が席を見つけると、私の席の後ろには一人の女性が座っていた。しかも何やらファイルをじっと見ながら。クラスの生徒ほとんどがグループでの立ち話をしている中でその女性は明らかに違った。
足を組み、片手でファイルをもち、もう一方の手でページをピラピラとめくりながら読んでいる。その姿勢や行動だけでも十分に浮いているのに、何と言ってもその大人びて誰が見ても美人だと思う顔がそれを際立たせていた。まさに、『女子』ではなく『女性』と言うのが正しい人だった。
私はこの女性を知っていた。いや、少なくともこの学年の生徒なら誰もが知っているだろう。
彼女の名前は福島 陽子。
全国一と謳われる高校生ピアニストである。
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