過去につながる曲。
今日の音楽の授業をサボった後で、女の子、いや、女性と2人で音楽室に行くのはすごく不思議な感覚だった。さすがに隣で並んで歩けるほど強がれなかった私は彼女の後ろ姿を追っていた。
彼女が何の話をするのかはわからないが、あまり他人にするような話ではないのだろうということは、なんとなく予想していた。
それに対して、私がずっと彼女の言葉に、「あなたも」という言葉に引っかかっていた理由はあまりにはっきりしていた。
『私以外にも音楽が嫌いな人がいる。』
それは私にとって大きな意味をもつ事象であった。
本校舎から離れるにつれ周囲の音は消えていき、音楽室に着く頃には辺りは静まっていた。
中に入ると暗がりの中にピアノと机が整然と並んでいた。黒板には授業の解説で使ったのであろう板書が残されてある。五線紙を模した部分には音符がならんである。エリーゼのためにの冒頭部分だ。なんとも、中嶋先生が好きそうな曲である。
「作曲の説明をする時にエリーゼのためにを持ち出すのはいいことなのかしらね。私にはちょっとわからないけど。」
私の方を見返しながら、彼女は言う。
「確かに有名な曲だけどもっと単純な曲から始めた方がいいよね。」
私は、今の私にとってはどうでもいい話をこれ以上続けらけたくはなかったが、あくまで話してもらう側の私に急かす権利はない。
「私が初めてピアノで弾いたクラシックの曲はエリーゼのためにだったの。お父さんが持ってたCDをプレイヤーにかけて3番目に出てきた。聴いたとたんに気に入ってお父さんのピアノの横までCDプレイヤーをもっていって。」
そこまで彼女が話したところで、ようやく私は彼女の表情だんだんと暗くなっていっていることに気づいた。
「なんで、特にしたこともなかったピアノを弾けると思ったのかはわからない。なんでエリーゼのためにだったのかもわからない。けど、その日私はエリーゼのために弾けたの。」




