夢見の少年が 『そら』 に想う事。
こんな思い出があるやつ、先生怒らないから手を挙げ(ry
――宇宙ってのは良いよな?
クリスマスも近い満天の星の夜。少年は静謐な空気の下、ボソリとつぶやく。
なんせあまりにだれも行ったことがないもんだから、――月ではウサギさんがおもちをぺったん×2してるんだよ!なんておとぎ話をちっちゃいころに母親から真顔で聞かされていたくらいだ。
うんうん、すばらしい。ロマンがあるじゃないか!
未知は心の栄養。明日へと生きる活力だ。
星海の美しさに思いを馳せ、想像を絶する惑星の質量に恐怖し、理解の及ばぬ原初の事象に畏敬の念を抱く。
これがロマンじゃなきゃなんだっていうんだ。
しかし、残念ながら人間ってやつは『心』以外にも『体』を養っていかなければならず、体を維持するためには働いて経済行為に加担しなければならない。
当たり前だ。『働かざるもの、飯食うべからず』、昔の人はいい事を言いました。
これはある種真実で、人生を生きるうえでのコツってやつで、とても善いことを言っているんだと、自分なりに理解するようになった。
つまり、ほどほどにがんばっていればかわいい彼女もできるし、運がよければ子孫を残し、――おじいちゃん!しんじゃやだ!!と、孫に看取られながらベッドの上で死んでいく。
あぁ、すばらしきかな我が人生、健やかであれ、我が愛し子らよ!
こういった終幕も夢じゃないと、そんな妄想をすることは難くないだろう。
今の世の中、金さえあれば飢えもせず、ある程度の協調性を持っていれば、生きるための安全は保障されている。
牙も爪も持たぬ弱い人間が獲得した『社会性』というシステムと『好奇心』という名の武器。
そうしてコミュニケーションという名の経済を中心とし、文明を発展させてきた人類は、物々交換、または手付かずの資源を獲得するために遠くの土地まで旅をする。
海があれば船で往き、山があればそれを踏破し、少しでも早くと空を飛ぶようになり、挙句の果てにはとうとう地球を飛び出した。
押しかけられたところでもおもちくらいしか出せないとなると、いかにやさしいウサギさんでも迷惑に思うに違いない。まったくぞっとしない話である。
――人とはどこに向かい、何を成し遂げ、そして消えていくつもりなのか。
そんな益体もないことに思いをめぐらせ、もうぬるくなったコーヒーをすすりながら、ベランダから見える旧電波塔をぼんやり見つめていると、視界の端に『イヤなもの』がきらりと、月の光を反射するのが見えた。
期末考査の準備に向けた、タブレットと資料の山だ。
「その前にこの山を登らなきゃなぁ…」
ため息をつきながら空に向かい、今の自分にはやらなければいけないことがあることを思い出した。
机の上に山積みにしている作業は、――いかに魅力的なウサギさんであろうが、出来立てほかほかのあったかいおもちだろうが――目下のところ最優先事項なのだ。
しばしの別れだ、ウサギさん。自分には明日を生き抜くための戦いがある。
などとかっこつけたところで、光沢のあるタブレットは真っ白なテキストの大地を文字で埋めようとする気配はいまのところ、ない。
「あーやらねーとなー!!もうっ!」
ガリガリと頭を掻き、不満を漏らしながらもよしっっと気合を入れる。
さよなら代わりにもう一度夜空を見上げ、ため息をつくと、ふいと――
――あれ?なんで宇宙になんて憧れてたんだっけ?
そんなことが何気なく頭をよぎるが、それもすぐにとけて霧散する。
この満天の星空と冬の清廉な空気は、そんな最後の未練のようなものをかき消し、少年は肩を回しながら元いた戦場へ帰還していった。
これはあの子と出会う前、まだ何の目標もなかった頃の記憶のひとつ。
ある星の夜の思い出だ。
ほら、田中!お前もいつまでの恥ずかしがってないで!
山田!!お前はクスクス笑うんじゃない!!
2014/12/24
ぽんじ・フレデリック・空太郎Jr
@ウガー!オレノヒダリテガー!('A`)