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取り繕うよりも、大事なこと

 天下無敵の事務職のあたしですが、一つ壊滅的に自信がないことがある… それは、ファションセンス


 あのね、流行の服とか本当に!本当に! いいなって共感できないの。


 ファッション誌の服は、全体的に浮き世離れしてる気がするし、

 店頭に並んでる服は、子供っぽい気がする。


 ファッションセンス、ないのかなぁ… いいなって思えないって、相当センス低いよね。どうしよう。



 なのでいつも、地味にシンプルに似たような服をグルグルと着回している。


 流石にね。曲がりなりにもOLだしさ? スカートさえ履いていれば 格好は付くだろうと 「履いてもいいかな?」と思うモノだけ買って、それにあう上を見付次第購入しているという… 物凄く ポリシーも何にもない衝動的な感じデス。


 そこをいくと…我が彼氏君はオシャレだ。


 よく見つけてくるなあ、という シャレが効いたモノから 「それ、アナタしか着こなせませんから」パンチの効いたものまで 「似合うもの」を無理なく着ている。


 …彼氏君がオシャレだと、並び立つあたしも… って思いたいけど、正直 そこが今 苦しくも重かったりする。


 

 

 仕事帰りの時だった。「これから会えない?」のメール。


 うーん、今日の服装…どうなんだろ?

 現場に入ってきた帰り道そのままの服装だったから、まあうん。言い訳は立つかもしれない。


「倉庫内作業してきたそのまんまの格好だから、オシャレなトコは行けないよ?」

断ったというか、敬遠球を投げたつもりが「それでもいい」って。


 えーっ!!


 ビシッと決めたスーツ姿と薄汚れた作業員スタイルのカップルが、横浜駅前で待ち合わせってどうなんよ、笑っちゃうなあ




 指定された場所は、駅から少し離れたバーガーチェーン店

「ドリンクチケット持ってるから、奢ってあげる」だって。

 なんか妙にモヤモヤしたものが残るまま 待ち合わせ場所に向かうと、加藤さんはすぐに手を引いてあたしを店にいれた。


 席に着くなり言われた。

「藍ちゃん、似合うなぁ」

 静かな店内のテラスみたいな二階席。並んで座る私たちの他には、誰もいない。

 そんななか …倉庫作業員の服装を褒められても… 心中複雑なあたしを、加藤さんは 惚れ惚れと見ている。

「言われない?脚長いって」

 …言われない、訳ではないけど… 自覚は無いし、自分から言うことでもないし。

「肩幅がちゃんとあって、お腹が締まってて、足が長い…藍ちゃん、スタイルいいから似合ってるよ」


 そう言ってもらっても、イマイチ感動はない。けど、でも 本人はきっと…本気で褒めてくれていると思って…いいのかな?

 表情が 無邪気なんだもん、信じて…いい気がする。


「俺もだけど、藍ちゃんって 元々は、気に入った服しか着ないし買わないでしょ?

 俺ね、服とか趣味とか、無理して欲しくないんだ。藍ちゃんは 無理して『女の子』してる気がしててさ」


 ねえねえ

 だから、今日は このままの服装で会おうって言ったの?

 だから、今日は ファーストフードのお店で会っているの?


「思いっきり、腰パンでも似合うと思うよ? 学生時代、運動してたでしょ?その肩幅と後ろ姿、見ればわかるもん」


 よくお分かりで。学生時代は、バリバリの水泳部でした。プールサイドで筋トレしてましたとも。

 なもんで 胸はMサイズですけど、肩幅はLサイズという不都合な事実!!

 そして、太ももが太すぎて、スキニー履いてもウエストが余って腿がキツイという喜べない喜び!


「スカート履いても似合うと思う。でも、藍ちゃん… 多分好きじゃないでしょ?」


 うっ!よくお分かりで。


「俺も忙しいからさ… 会えるときに 気軽に会いたいし、何度も会いたい。

 カッコイイところで、ゴハンもしたいけど、藍ちゃんには、一番のびのびして欲しい。」


 あぁそうなんだ

 やっぱり、だから今日は このままの服装で会おうっていったんだ。

 やっぱり、だから今日は ファーストフードのお店で会っているんだ。


  加藤さんって、本当に… それが分かったから言ってみた。


「たまには、スカートはかないと 自分が女の子ってのを忘れちゃうよ。

 そういう日は予告するから、カッコイイところでゴハンもしようよ?」

 

 人によっては、なんだこの男って思うかもしれない。でも、わたしには 丁度いい申し出だったな。

 だって、そうじゃん。

 毎回 オシャレして お金使ってデートするのも カッコイイかもしれないけど、この人は 自然体でいいよって言ってくれる。

 

「お? 勝負かけてくる時もあるんだ?」

 加藤さんは、嬉しそうに笑った。

「じゃあ、俺も気合入れて店選ぶよ、そういう時は。」

 きっと、いっぱい知ってるんだろうな。けど、

「探している時が楽しいんだよね。藍ちゃん、サプライズとか好き? 俺、一緒に考えるのも好きな人なんだけど?」

 さりげなく、思考回路の中に私を入れてくれる。



 加藤さんって、人を自然体にさせるのが 上手だと思う。

 そして…


「藍ちゃん、夕飯どうする? 俺んちで飯食ってかない? 最近、コンビニで面白い料理の本買ってね…缶詰にチョイチョイ足しものして 酒のつまみにしちゃおうっていう企画でさ?」


 人に無駄な気遣いをさせないのが 上手だと思う。



 あたし、とんでもなく 素敵な人と一緒にいられているんだと思えてきた。

 なんか、そんな気がしてきた。だったら、答えは一つ


「加藤さんちに、サンダル、置いてってもいい? いつでも急な買出し行けるように。」 


 あたし、無理して自分の妄想の「女の子像」をおうのはやめよう。

 この人が自然体で接してくれるなら、殻にこもるのも、何かを取り繕うのもやめよう。


 取り繕うとしたら…もっと 違うことを大事にしよう

 本当に大事にしなきゃいけない、大人の心遣いを目指そう。


 ちょっとだけ、この恋の行く末が明るく思えたとある仕事帰り。

 わたしの心は、レモンティのように 甘酸っぱく広がっていった。

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