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候ふて  作者: 空と雲
3/6

赤い金魚

いよいよ、夏祭りのはじまりです。

 澄んだ空気に、金色の光。蛍がぽうっと美しく舞う、幻想的な夕暮れ。

 提灯(ちょうちん)の灯りが遠くでゆらめき、夏限定の情熱を表現している。



「よーしっ、皆集まったね」

「集まったも何も、3人だけだろうが」

「もうーそういうこと言わないのー! せっかくのお祭り気分が台無しじゃない」

「だって本当のことだろう」

「とりあえず、行こうか、そろそろ賑わってくる時間だし」

「うん」



 夏祭り会場まで、徒歩数分。広い歩道を3人並んで歩いた。

 まださほど闇に満ちていないこの時間帯では、お互いの顔がはっきりと見えて、なんだか落ち着いた気持ちになった。『隣にいる』そう思えるだけで、すごく幸せな気分になれた。

 河川敷は思って以上の(にぎ)わいをみせていた。横を通り過ぎる人々の手には、焼きそばや綿飴、ヨーヨーなど、夏祭限定の商品が携えられていた。


「ねー、あたし、あれやってみたいな」

 あたしが指さしたのは、金魚すくいのコーナー。


「はぁ? 金の無駄遣いなだけだろ。そもそもこういう所の金魚ってのはな、すぐ死ん……」

「いいねー。僕やろっかな」

「おいワカバ! なにお前まで調子にのって―――――」

「おにーさん、2回ねー」

『はいよっ』


 あたしと若葉くんは青葉くんの言葉を遮って、ビニールの水槽の淵に並んでしゃがんだ。


「あたし、金魚すくいやったことないんだー」

「そうなの? 僕は慣れてるよ。毎回やってるから」

「そうだったっけ」

「うん。じゃ、僕がまずお手本を見せるから―――」



 ジャバッ



「……え? あれ、失敗?」

「…しちゃったみたい。ごめんっ!」

「いや、いいのいいの。大体のコツはわかったから」


 あたしは深く深呼吸をして、すくいを構える。そうして、勢いよく水面にそれを降ろそうとした時、不意に腕を掴まれた。



「金魚もバカじゃねぇんだ。そんなに(のろ)いと、すぐに逃げられちまう」



 バシャバシャァアッ



「……ほらよ」

「えっ」


 あたしの目の前で、青葉くんが得意気にビニールをかざしている。

少し水の入ったそれには、赤い金魚が2匹と、赤白斑(まだら)の金魚が1匹。


「……これ全部、青葉くんがとったの?」

「ああ、そうだ。すごいだろう?」

「たったの200円で?」

「お……お前な! せっかく人が誰かさんの為に苦労してとってやったんだからさ、少しくらい礼を……ってオイ! 聞いてるのか?!」


 あたしの為に。


「ありがとう。青葉くん大好きだよ!」

「……ッ」

「青葉くんは、あたしの最高のボーイフレンド……って、どうしたの顔真っ赤(笑)」

「うっうるせぇ! こっち見んな!!」

「アオバが照れてるーかわいー」

「可愛いとか言うな!」


 あたしは隣で言い合う2人を横目に、ビニールを泳ぎ回る金魚を見た。

 3匹の金魚。ああ、なんかあたしたちみたいだな。

 赤2匹が2人で、斑があたし。こうやって些細なことで繋がりを見つけられるのって、すごく嬉しいことなんだって今思う。


「青葉くん、若葉くん、そろそろ花火が上がるよ……」


 3人揃って見上げた灰色の星空。楽しい夏祭りは、まだまだ続きそうだよ。


夏祭りはまだまだ続きます。

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