赤い金魚
いよいよ、夏祭りのはじまりです。
澄んだ空気に、金色の光。蛍がぽうっと美しく舞う、幻想的な夕暮れ。
提灯の灯りが遠くでゆらめき、夏限定の情熱を表現している。
「よーしっ、皆集まったね」
「集まったも何も、3人だけだろうが」
「もうーそういうこと言わないのー! せっかくのお祭り気分が台無しじゃない」
「だって本当のことだろう」
「とりあえず、行こうか、そろそろ賑わってくる時間だし」
「うん」
夏祭り会場まで、徒歩数分。広い歩道を3人並んで歩いた。
まださほど闇に満ちていないこの時間帯では、お互いの顔がはっきりと見えて、なんだか落ち着いた気持ちになった。『隣にいる』そう思えるだけで、すごく幸せな気分になれた。
河川敷は思って以上の賑わいをみせていた。横を通り過ぎる人々の手には、焼きそばや綿飴、ヨーヨーなど、夏祭限定の商品が携えられていた。
「ねー、あたし、あれやってみたいな」
あたしが指さしたのは、金魚すくいのコーナー。
「はぁ? 金の無駄遣いなだけだろ。そもそもこういう所の金魚ってのはな、すぐ死ん……」
「いいねー。僕やろっかな」
「おいワカバ! なにお前まで調子にのって―――――」
「おにーさん、2回ねー」
『はいよっ』
あたしと若葉くんは青葉くんの言葉を遮って、ビニールの水槽の淵に並んでしゃがんだ。
「あたし、金魚すくいやったことないんだー」
「そうなの? 僕は慣れてるよ。毎回やってるから」
「そうだったっけ」
「うん。じゃ、僕がまずお手本を見せるから―――」
ジャバッ
「……え? あれ、失敗?」
「…しちゃったみたい。ごめんっ!」
「いや、いいのいいの。大体のコツはわかったから」
あたしは深く深呼吸をして、すくいを構える。そうして、勢いよく水面にそれを降ろそうとした時、不意に腕を掴まれた。
「金魚もバカじゃねぇんだ。そんなに鈍いと、すぐに逃げられちまう」
バシャバシャァアッ
「……ほらよ」
「えっ」
あたしの目の前で、青葉くんが得意気にビニールをかざしている。
少し水の入ったそれには、赤い金魚が2匹と、赤白斑の金魚が1匹。
「……これ全部、青葉くんがとったの?」
「ああ、そうだ。すごいだろう?」
「たったの200円で?」
「お……お前な! せっかく人が誰かさんの為に苦労してとってやったんだからさ、少しくらい礼を……ってオイ! 聞いてるのか?!」
あたしの為に。
「ありがとう。青葉くん大好きだよ!」
「……ッ」
「青葉くんは、あたしの最高のボーイフレンド……って、どうしたの顔真っ赤(笑)」
「うっうるせぇ! こっち見んな!!」
「アオバが照れてるーかわいー」
「可愛いとか言うな!」
あたしは隣で言い合う2人を横目に、ビニールを泳ぎ回る金魚を見た。
3匹の金魚。ああ、なんかあたしたちみたいだな。
赤2匹が2人で、斑があたし。こうやって些細なことで繋がりを見つけられるのって、すごく嬉しいことなんだって今思う。
「青葉くん、若葉くん、そろそろ花火が上がるよ……」
3人揃って見上げた灰色の星空。楽しい夏祭りは、まだまだ続きそうだよ。
夏祭りはまだまだ続きます。