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候ふて  作者: 空と雲
2/6

青葉若葉

「待った~? じゃねぇよ! 俺らがどれだけ待ったと思っているんだ」


 戸口で顔を合わせて早々、あたしに向かってずけずけと悪態をついてくるこの人が、青葉くん。人一倍負けず嫌いで勝負事が大好き。だけど情にもろく、すぐに落涙してしまうナイーブな心の持ち主でもある。



「ごめんごめん。そう怒らないでよ」

「…………」


 しかし、あたしの必死の謝りに少しは機嫌を直したのか、静かに青葉くんがつぶやく。


「べ……別に本気で怒ってたわけじゃないし、いいけどさ」

「そっか、よかったー」

「サキちゃんを困らせたらだめだよーアオバ」

「ううん。だいじょぶだよ、若葉くん」

「ほんとー?」


 そう言って首を傾げるこの人が、若葉くん。おっとりとした温厚な性格で、争い事が苦手。植物や動物など生き物を愛する今では珍しい草食系男子。

 青葉くんも若葉くんも、容姿はそっくりだけど性格がまるで違う。彼らの親でも間違うことがあるらしいけど、少なくともあたしは絶対に間違えない自信がある。


「青葉くんも、若葉くんも、今日はどこに行くか決まってる?」

「もちろんだろ、な。ワカバ」

「うん。お祭りだもんね、河川敷の夏祭り」

「え? 夏祭り?」


 若葉くんが懐から出した1枚の紙には、その詳細が明記されていた。


「お祭り、あったんだ」

「ん、サキは行かないのか?」

「ううん、勿論行くけど……こんなのすごく嬉しくって」

「あはは。サキちゃん超カワイイー」

「わっ、若葉くんっ! からかわないでよー!」

「そうだぞワカバ」

「なんだよぅアオバ。アオバも言いたかったら言えばいいじゃんねー?」

「は、はぁ!?」

「いや。できればやめてほしいような……」


 まあ、こんなスキンシップも嬉しいんだけどね!


「とりあえず、この祭りのことを確認しに来たんだ。サキは忘れっぽいから」

「時間的には今日の6時くらいからだから……5時半くらいにココで待ち合わせっていうのはどうかな? サキちゃんその時間帯、お店にいるよね?」

「うん、いるよー。じゃあ、その時間に待ち合わせねー」

「あと、僕から一つだけお願いがあってね?」

「うん。なあに?」

「サキちゃんの浴衣みたいなぁって」

「……えっ?」

「だからー、できれば浴衣で来てほしいなって」

「何言ってんだワカバ。あんまり調子に乗んなよ」

「ゆ、ゆゆゆ浴衣なんて、初めてだからあんまり分かんないんだけど」


 でも、おばあちゃんから借りれば……。


「じゃ、期待してるね~」

「うっ、うん」

「あんまし無理すんじゃねーぞー」

「はーいっ」


 しまった扉をしばらく見つめ、あたしはおばあちゃんのところにとんで行った。


「おばーちゃーん」

「なんだい、さっちゃん」

「あのね、青葉くんたちが、浴衣で来てって。お祭りに」

「ほほほほほっ。お祭りかい、浴衣ならたくさんあるよ。好きなのをお選び。おばあちゃんがきせてあげるよ」

「ホントっ? ありがとう! おばあちゃん大好き!」


 こうしてあたしが選んだのは、水色の生地に花びらの模様が散った、可愛らしい浴衣だった。帯を縛ってくれながら、おばあちゃんは柔らかく微笑む。


「さっちゃん、とてもよーく似合っているよ」

「ありがとう。あたしもこの柄、好きだよ」

「青葉くんたちもさぞかし喜んでくれるでしょうねぇ」

「うん、楽しみだなぁ!」


 あたしはぐるりと一回転して、おばあちゃんと顔を見合わせて笑った。

 夕暮れまでまだ時間がありそうだ。


続きます。

次は夏祭りです。

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