咲
「またのご来店、お待ちしてますね」
あたしは入り口まで出て、ペコリと頭をさげる。
「あらあら、咲ちゃん大人になったこと」
「いえいえ」
お客さまをお見送りしたあと、あたしは店番に戻る。
いい忘れたけど、あたしの家は、お茶やさん。
挽茶本舗「咲」の看板娘をしている。
店の名前はショウだけど、あたしの名前はサキだ。お得意様にもよく間違えられる。
だから、冒頭で毎回説明するハメに。
店長はあたしのおばあちゃん。今は店の奥で寝たきりだけど、いつもあたしのことをたくさん可愛がってくれる、優しくて大好きなおばあちゃんだよ。
そんなおばあちゃんに、少しでも安心してもらえるように、今、こうしてあたしが一人でがんばってる。
がんばって、もっとたくさん誉めてもらうんだもん。
「さっちゃん」
戸口から声がした。
おばあちゃんだ。
「なあに」
「若葉くんたちがおもてに遊びに来てるよ。遊んでらっしゃいな」
若葉くんはあたしの幼馴染。その他にもう1人、若葉くんの双子の兄弟の青葉くんってコがいる。同じく幼馴染。
遊ぶといったら、今の子たちは"ゲーセン"やら、"ボォリング"やらといった、ビカビカしたものを連想するらしい。
けど、あたしたちはそんな細かいこと、考えないよ。
時には河原で日向ぼっこ。時には公園でピクニックごっこ。またあるいは、海で水遊びや貝拾い。
3人、いつも一緒。1人でも欠けてると、なんか物足りない。3人が一番落ち着く。そんなもんでしょ。
何気無い一瞬が、あたしの一番のしあわせ。
だけど、寝込んでるおばあちゃんと常連のお客さんをほっぽいて、あたしだけが楽しんでいい訳がない。でもさ、同じハカリにかけると、どうしても自由にかたむくのが人間というもので。
「おばあちゃん……」
「そんな悲しい顔するんじゃないよ。私のことはいいから、お友達と遊んでおいで。」
おばあちゃんの言葉はいつもあたたかい。
だから言葉一つで安心するし、勇気がでる。
「わかった! 行ってくるね!」
「いってらっしゃい。気を付けるんだよ」
「はぁーい」
あたしは家を飛び出した。
「ごめん! 待った~?」
お茶は玄米茶がすきです。
どくだみ茶は少しニガテ。