エピローグ③
その頃、生徒会室では、麻美子がいなくなって空いた、風紀委員のポストを埋めるための選考が行われていた。今日は書類選考で選ばれた女の子たちの面接をしている。面接官は生徒会の面々である。
「ありがとうございました」
所要時間十分もない面接が終わり、十二人目の女の子は頭を下げて姿勢よく、面接会場から出て行った。扉が閉まり、二秒してから会計の江坂が言った。「今の子、いいんじゃない?」
その一声に書記の児玉と白沢、副会長の千田も肯定的に頷く。
表情を変えないのは、生徒会長の美波瑠だった。
「悪くはない、でも、」美波瑠の念頭にはいつだってあの子がいる。「空いた穴を埋められるかしら?」
美波瑠の意見で部屋にはお疲れムードが漂う。皆、美波瑠ほど真剣に考えていないのである。生徒会の総選挙は九月の頭。だからそれまでの雑事をこなしてくれれば誰でもいいのである。間に夏休みも挟むことだし、美波瑠以外は適当な女の子を選べばいいと思っている。一応、風紀委員の募集に応募してきたということはやる気があるということなのだから、正直言って誰でもいい。けれど、美波瑠はそれじゃ嫌なのだろう。
「じゃあ、次の女の子を呼びましょうか?」白沢が書類を見ながら言った。「あっ、この方が最後だそうです」
「え?」美波瑠が声を上げた。それに気付かないで白沢は立ち上がり、扉を開け、外で待っていた最後の女の子を呼び寄せる。「どうぞ、……え?」白沢が奇妙な声を上げたから皆の集中力の切れかかった視線は扉へ集まる。「どうぞ、中へ」
白沢に促されて生徒会室に現れたのは、オレンジ色のバンダナに、デニム生地のつなぎ姿の女の子だった。女の子、と言うよりは女性。美波瑠はその女性に見覚えがあった。飼育委員長の、
「周防真琴」委員長会議で知っていた。直接話したことはないけれど、目につく姿と顔立ちをしているから覚えていた。
「あれ、会長、覚えててくれたの? 嬉しいねぇ」そういうふざけた言葉遣いも覚えていた。
「取りあえず、座って」
「どうも」周防真琴はパイプ椅子に深く座った。
「白沢、」と美波瑠は周防真琴を視界に入れたまま呼んだ。「周防さんは本当に書類選考を通ったの?」
「ごめん、会長、」白沢に代わって周防真琴が言った。「その履歴書、全部ウソ、っていうか、私の、可愛い後輩の履歴書、顔写真も後輩のもの」
「……どういうつもり?」美波瑠の顔は怖かった。
「会長、綺麗な顔が怖いよ」
「ふざけないで、」美波瑠は軽くあしらおうとしたけれど、やっぱり腹が立っているから怒鳴ってしまった。「っていうか帰れ!」
「風紀委員候補は見つかったのか?」周防真琴は美波瑠の怒りを無視して質問する。
「教えない」美波瑠は穏やかに答える。
「いなかった、そうだろ?」
「いいえ、違う」
「素直だな」
「あなたほどじゃないわ」
「率直に言おう、私を雇ってくれないか?」
「それは報酬を望んでいるわけ?」
「話が早くて助かるよ」
「でもそんなの募集要項に書いてないわよ、そうよね、白沢」
「は、はいっ」白沢は頷く。
「そもそもあなたは飼育委員長、風紀委員になる権利はないわ」
「飼育委員長は辞めてきた」
そのお一言に周防真琴以外の全員が驚いた。「可愛い後輩に譲って来た、しっかり書くものも書いたよ、印鑑も押した、コレがそう」
周防真琴は美波瑠の前に書類を置いた。美波瑠はしばらく眺め、それから手に取って文面に目を通し、書類をデコピンした。
「で、」美波瑠は大きく瞬きをした。「周防真琴は何をお望みなの?」




