プロローグ⑥
「勝手におさげに触るな、こらぁ!」
かなえは叫んだ。真奈の背中がどんどん小さくなっていく。かなえの表情は歪んで、「ああっ、もうっ」とヘタリ込んだ。「あと、もう少しだったのにぃ」
「いやいや、迫真の演技、イイものが撮れたぁ」
かなえの前にぬっと現れたのは、テレビドラマのヒロインに抜擢されてもおかしくないような絶世の美少女だった。その美少女はアリスと同じ型のビデオカメラを構えていた。
「真奈さんが釘を打たなきゃ、イイものが撮れても意味ないじゃん、無理に怖い顔をして真奈さんを少しは惑わすことが出来たのに」
「愛の力、……かな?」絶世の美少女がポツリと言う。
「何それ?」かなえはポケットから携帯電話を取り出して、トランシーバー機能を利用した。「リカちゃん、比奈さん、かなえは派手に失敗しました、ターゲットは噴水に向かったようです、でも走って行った方向は真逆です、オーバー」
かなえは返事を待たずに機能を切った。「……それにしても、」と呟く。「セーラー服って可愛いなぁ」
かなえのそんな物憂げな顔を絶世の美少女は何も言わずに一枚撮った。そしてかなえを置いてそそくさと真奈が走った方向に走って行った。




