第六章④
麻美子は『天樹探偵事務所』の扉をコンコンと蹴った。私物の詰まった段ボールで両手が塞がっていたからだ。「おーい、天樹、開けてくれ」
「何、その荷物」天樹は麻美子の後ろから現れた。本日もエキセントリックな格好をしている。ただいま登校のようだ。時間を確認したら確かにまだ少し早い時間だった。
「ああ、丁度良かった、天樹、開けてくれ」
天樹は鍵を開け、扉を押す。
麻美子は中に荷物を降ろして肩を回し、息を吐く。「あー、疲れた、あっ、天樹、そういえば、昨日は結局どうなった?」
天樹は両手をピースサインにしてニカッと笑った。「最終兵器が骨を砕きました」
「嘘、梨香子の?」
「うん」天樹はブーツで床を叩く。
麻美子はくしゃくしゃと頭を掻く。「天樹、やり過ぎ、かなえに呪われても知らないぞ」
「で、何、その段ボール?」天樹はカバンをテーブルの上に置きながら聞く。
「ああ、そうそう、しばらくココで厄介になろうと思って、よろしくお願いします」
「えっ、どういうこと?」
「辞めてきたんだよ、風紀委員」
天樹はぼーっと麻美子を見ながら頬を掻く。無垢な目をして麻美子の諸事情を推測しているようである。「……まぁ、仕方ないよね、あんなことしたんだもん」
「そ、そういうこと、物分かりがよくて助かるよ」
「……私の部屋に来る?」
それは『家に来るか?』という誘いだろう。天樹は寮に入らず徒歩十五分の豪奢な実家に住んでいる。麻美子は首を振った。「いいや、遠慮しとく、お金もないしね」
「そんなの気にすんなよ、」天樹はソファに寝っころがった。「ま、麻美子がさ、ココがイイっていうんだったらさ、それでいいけどさ」
「私のことは、アレだ、猫のぬいぐるみ程度に思ってくれ」
「あはははっ、」天樹は盛大に笑った。「猫さんって柄かよっ」
「うるさいっ」麻美子も笑った。
「……あっ、」急に天樹は真剣な目をする。「もしかして、コレって」
「ん? どうした?」
「麻美子は私の、」天樹はエロい目で麻美子を見る。「コレクションドール?」
麻美子はクッションを天樹に投げた。「ばーか」




