第五章⑭
宮古はGPSを頼りに移動した。麻美子の居所を示す三角形のマークは順調に宮古のいるところに近づいている。ふと気づいて画面から顔を上げ、地図ではない自分の場所を確認すると、そこはウサコの住む、鳩笛寮の前だった。麻美子は、どうしてココに向かっているのだろうか?
犯行現場に証拠でも残したのだろうか?
いや、そんなものはどこにもなかった。麻美子がココに再度訪れる理由が見当たらない。
「……いや、もしかして、もしかすると、」宮古は見当違いの予測をした。「今度は宇佐美ちゃんを連れ去ろうというの!?」
宮古がそう独り言を発したときだった。三人の走ってくる女の子の姿を確認した。
麻美子とウサコと、連れ去られていたはずの赤城真奈だった。
宮古は状況が分からず頭上に『?』マークを浮かべるしかなかった。「え? なんで?」
「あれ?」鳩笛寮の前で速度を落として止まって呼吸を整えながら麻美子は宮古を見た。「宮古さん、どうしてココに?」
「いや、どうしてっていうか、なんていうか、」宮古は混乱している。赤城真奈と手を繋ぎ、見つめ合い、幸せそうなウサコの表情を見て混乱している。「事件はもう解決したの?」
「はい? ああ、ええ、」麻美子は握っていたモデルガンを宮古に返した。「役に立ちましたよ、コレ、モデルガン、ありがとうございました」
「え、あ、うん、どういたしまして」宮古はモデルガンを受け取った。
「ありがとうございました」ウサコは宮古に頭を下げた。「おかげさまでこうして真奈さんを取り戻すことが出来ました」
「え? いや、私、なんにもしてないし」ウサコは社交辞令を言ったのだろう。それにしても状況が呑み込めなかった。一人だけ、ベランダにいるような気分。けれど、ベランダにいるものの特権として部屋を客観的に観察することが出来る。
「麻美子さん、本当にありがとうございました、あっ、天樹さんは大丈夫でしょうか?」
「心配ないって、天樹は生意気にも初段なんだ、空手の」
麻美子とウサコに比べて赤城真奈は少しだけ不幸せな表情をしていた。いや、宮古がそう感じただけかもしれないが。
ウサコと真奈は寮に入っていった。
ウサコと真奈の背中は対照的だった。嫌な感じを受ける。本当の解決がなされていない、スッキリとしない感覚。
「ちょっと、麻美子、」宮古は麻美子の首に手を回した。「一体どういう形で事件が解決されたのか、詳しい話を聞かせてもらおうじゃないの」




