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第五章⑨
ウサコは脱兎のごとく飛び出そうとして、また、麻美子に口を塞がれた。
「様子を見るっていう言葉を知らないのか、チミは」
ウサコは口を塞ぐ手を無理やりはがして小声で叫ぶ。「早くしないと行っちゃうよ!」
「なんかイントネーションがアメリカ人みたい」
隣で天樹が小さく笑う。目は真奈たちを追っている。「急がなくて大丈夫だよ、疲れているのか、歩みが遅い」
「急がなきゃ、真奈さんに会わなくちゃ」小声で叫ぶ。
「あはは、またアメリカ人みたい」天樹が小さく笑う。
どーでもいいことで笑われてウサコは『ムキー』と頭に血が上った。「もう、私だけ先に行きますっ」
「よし、行くぞ」麻美子が静かに林から出た。「おう」天樹も続く。「え?」とウサコ。
二人はもの凄く静かに歩いて、すぐに周りの風景に溶け込んだ。二人とも目立つ造形をしているのにどういうことだろう。ウサコは二人の背中を見ながら考えてた。そしてはっとなって慌てて林から出る。二人の背中はすでに遠くを歩いていた。「ああん、待って下さい」




