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(私を苦悩させるさまざまな女の子たちの)ミソラ  作者: 枕木悠
第五章 Hello,My Friend(ハロウ・マイ・フレンド)
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第五章⑦

「何か、武器になるようなものを取ってくる」

 そう言って麻美子は走っていった。ウサコは頼れる女の子がいなくなって少し不安だった。だからずっと緊張しながら天樹の双眼鏡で洗濯工場の扉やその周辺を監視している。天樹は後ろで禁止されているはずの携帯電話を弄りながら木の幹にもたれ座っている。ゲームでもしているのだろうか、こんな時にってウサコは天樹にイライラしっぱなしだった。

「ウサコ、少し休んだら? 赤城真奈の洗濯が終わるのにはまだ時間があるよ」

 言われてウサコは双眼鏡を降ろして息を吐いた。

「さっきから天樹さんは何をしていらっしゃるんです?」

「ツイッターで実況してるの、ウサコもフォローしてね」と天樹は画面を見ながら言った。

「ふざけないでくださいっ」ウサコは天樹から携帯を取り上げた。

「あー、何すんだよぉ」

「折りますわよ」ウサコの目はマジだった。

「冗談きついぜ」天樹は笑う。奪い返す目的で立ち上がろうともしない。

 ウサコは携帯電話を逆に畳もうとする。天樹はやっとマジだと悟り、顔色を変えてウサコに飛びついた。「お願いします、止めてください!」

 ウサコも鬼ではない。ウサコはウサコだから天樹に携帯電話を普通に畳んで返した。ウサコは溜息を付いて天樹の隣に座った。「なんだか疲れましたわ」

「まだあと十五分以上もあるよ」携帯を開いて天樹が言う。

「えっ? もうそんなに時間が経ったのですか?」

「ツイッターをしていると時間はあっという間だよ」

「いろいろなことを考えていたからでしょうか?」ウサコは呟く。「あ、そういえば、麻美子さんは? 遅くありませんか?」

「遠くまで武器を探しにいったんでない? でも、天樹がいるから武器なんて必要ないのにね」

「……天樹さんはどうして探偵をしているんですか?」

「天樹と麻美子の会話を聞いてなかった? 部屋が欲しかったんだ、家以外の別の部屋、自分の部屋が二つあるってよくない?」

「いや、そうじゃなくて、どうして探偵を続けているんですか?」

「へ? だから部屋が欲しくて」

「ただ部屋が欲しいだけだったら、こういう面倒くさいことに付き合ってくれないでしょう?」

「面倒くさくないよ、楽しいよ」ニコッと天樹は笑った。

「私は面白くありません」

「依頼人は皆そんな詰まらなそうな顔をするよ」

「そうでしょうね、上手く笑うことなんてできません」

「笑ってもらいたいのかな?」

「え?」

「天樹は様々なことで苦悩している女の子たちに笑ってもらいたいのかな、今、思ったんだけど」

「そうですか、」ウサコは少し天樹に対して好感を持った。「私、天樹さんのことを少し誤解していたのかも、」

 とウサコが言っている横で天樹は顎に手を当てて言った。「いや、やっぱり他人の不幸は蜜の味的なフィーリング?」

「さいってーです!」

「あははははっ」天樹はウサコの怒った顔を見て笑った。不思議とさらに怒ろうとは思えない、憎めない笑顔だった。

「お待たせっ」背後から声がした。麻美子が戻ってきた。走ってきたようで呼吸が荒い。汗もかいている。麻美子はウサコの隣に座った。「一応、間に合った、よかったぁ」

「どこまで行ってたんだよぉ」天樹が尋ねる。

「少し、遠くまで」

「武器は?」

 麻美子はスカートを脱ぐようにごそごそやって、黒い光沢を放つ、硬いものを取り出し、ウサコの首筋に二十二口径を当てた。

「ひゃあああっ」ウサコは可愛く悲鳴を上げた。もちろん、素で驚いたのだ。

「モデルガン?」天樹は驚きもせずに言った。「それが武器?」

「二秒間くらいの余裕を作れるかもしれないだろ?」

「脅かさないでくださいっ」ウサコが訴える。

「ウサコみたいに驚いてくれたらいいな」麻美子は真面目に言った。

「もうっ」ウサコはぷんぷんしている。そのぷんぷんした口を、急に麻美子に塞がれた。

「きたな」天樹は中腰で前のめりになって携帯を開き、物凄い速さでボタンを押す。興奮した心境を伝える言葉をつぶやいたのだ。

 ウサコは大人しくなって、洗濯工場の入り口に視線をやる。真奈が出てきた。



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