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(私を苦悩させるさまざまな女の子たちの)ミソラ  作者: 枕木悠
第五章 Hello,My Friend(ハロウ・マイ・フレンド)
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第五章⑥

 ミソラが不安を抱き、真奈が比奈と洗濯物を仕分けし、梨香子が乾燥機の一連の作業に追われワルツを踊ったり、ウサコたちが林の中で監視を続けていたりと様々な女の子が様々なことをしている一方で、第四詰所の宮古は毎日のルーチンワークを横に監視カメラの映像を見つめていた。椅子に深く座り、何かに行き詰っている表情。そして溜息。

「宇佐美ちゃんにああ言ったのはいいもののぉ」

 宮古は机に突っ伏し、女の子のように頬を膨らます。

「全く手がかりが見つからないわぁ」

 宮古はウサコの身に起こった不可解な事件を解決するために昨日から様々なことを考えていた。例えば、例えば、例えばと思いついたことを実際に現場に赴いて確かめてみたりした。もう一度鳩笛寮にも行った。女の子たちのいない静かな時間に隠し部屋がないかとか、押し入れに地下道への入り口がないかとか、様々な場所を調べた。ウサコの部屋にも再度訪れた。昨日と何も変わるところはなかった。ひょっとして赤城真奈が戻ってきている可能性も考えたが、荷物も増えていないし、それに赤城真奈が戻ってきたら詰所の黒電話が鳴るだろう。他にも宮古は警備巡回中のカードを差し込んだネームホルダーを首から下げて高等部校舎を見て回った。それは全て徒労に終わった。そして宮古はルーチンワークを横に再度監視カメラの映像を確かめているわけだ。が、もちろん、昨日見て駄目だったのだから、望み薄、である。けれど、宮古はウサコの依頼を解決したかった。約束したこともあるし、自分の方が大人だから見栄もある、女の子たちを守るマーブルズとしてのプライドもある。だから真剣だった。

 と、そのおり第四詰所の扉がコンコンと叩かれた。窓から顔を覗かせたのは風紀委員の麻美子だった。風紀委員とマーブルズ、業務内容がなんとなく被ることもあって宮古は麻美子とは顔見知りである。麻美子は宮古を姉の様に慕っている。宮古は麻美子を妹に接するような態度で招いた。

 麻美子はガラガラと扉を開け、入ってくる。

 宮古はマウスをクリックしてパソコンの画面にスクリーンセイバーを映した。「いらっしゃい」

「お邪魔します」麻美子は汗を掻いていた。呼吸も荒い。遠くから走ってきたのだろうか? この学園は目茶目茶広いから、どこから走ってきても第四詰所に着くころには今の麻美子みたいな状態になる。

「今日は何?」

「今忙しいですか?」

「やることはたくさんあるけど暇だよ」

「お水下さい」

 宮古は奥の部屋まで行って冷蔵庫を開けた。その部屋では藤堂先輩がスヤスヤと寝ていた。冷蔵庫には麦茶とウーロン茶と緑茶と紅茶があった。

「ウーロン茶でいい?」宮古は部屋から顔を出して聞く。

「はい」と麻美子の返事。

 宮古はコップとウーロン茶のペットボトルを持って机に戻る。ウーロン茶をコップに注ぐ。

「ありがとうございます」麻美子はウーロン茶を一気飲みした。麻美子の髪の先は汗で跳ねていた。

「で、どうしたの?」

「武器を探していて、ここなら何かあるかなって」

「武器? 物騒ね」

「何も聞かないでくださいね、説明しづらいことなんで、決着が付いたら後で教えますから」

「あはは、」麻美子は風紀委員だからいつもみたいにまた厄介ごとに巻き込まれたんだなって思って笑う。「いいよ、でも、武器なんて警棒くらいしか」

「警棒ですか、……もっと威嚇になりそうな」

「拳銃とか?」

「あるんですか、まさか?」

「ないないそんなカッコいいもん、」言いながら宮古は机の引き出しを開けて黒いものを麻美子の前にそっと置いた。「モデルガンだけど」

「十分カッコいいですよ」麻美子は手に取って宮古に向かって打つ真似をした。

「いい、様になってる」

「コレ、借りていきますね」

 そのときマウスが宮古の肘に触れて、画面が監視カメラの映像になった。

「あっ」宮古は言った。別に麻美子に隠しておく理由もなかったのだが、なんとなく誰にも見られたくなかったから、私の事件だから、スクリーンセイバーにしておいたのだけれど。

「なんですか? 監視カメラ?」麻美子は画面を覗き込んだ。

「うん、ちょっと、」宮古は説明しづらそうに頬を指で搔いた。「小さな事件があってね、ちょっと映像を確かめていて、」

 宮古はそこまで言って、麻美子の表情が紙粘土みたいに固まっているのに気付いた。「麻美子、どうした?」

「あっ、いや、なんでも」麻美子は顔を背け、そのまま詰所の外へ出た。振り返って手を振ってやって来た方向へ走っていった。

 宮古は手を振りながら『ん?』と思った。まあ、別に何かを不審に思ったわけじゃない。それから宮古は監視カメラの確認作業に戻った。それから少しして奥から藤堂先輩が目を擦りながら起きてきた。「あ、藤堂先輩、気分はどうです?」

「ふあああぁ、少し楽になりました、宮古さんのおかげです、えへへ」藤堂先輩は宮古の向かいに腰かける。藤堂先輩は長い黒髪を一つに縛った。それから眼鏡ふきでレンズをキュッと拭いた。麻美子の使っていたコップでウーロン茶を少し飲んで、パジャマの第一ボタンをはずした。いつみてもおっぱいが大きい。当然だけど。風邪を引いているからだろうか、色っぽい。思わず胸元を見てしまう。

「ん? 宮古さん?」

宮古はコホンと咳払い。「……まだ顔色がよくないですよ」

「そうですか?」

「夕食は食べれそうですか?」

「うん、ごめんね、宮古さん、なんでもやってもらっちゃって」

「お互い様です」

「?」と藤堂先輩はパソコンの画面を覗き込んだ。「宮古さん、何をしてるんです?」

「えっと、」と宮古は藤堂先輩になら、とウサコの事件のことを洗いざらい話した。藤堂先輩から何かヒントを貰えるかもしれないとも思った。正直一人では行き詰っている。いつだって藤堂先輩の助言は適格だから、全て、話す。藤堂先輩は適度に頷きながら余計なことを挿まずに宮古の説明を聞いていた。レンズの奥の大きな黒目は何を考えているのだろう。「……と、そんな感じなんですけど」

 宮古は話し終えた。藤堂先輩の言葉を待つ。

「あ、だから監視カメラを見ているんですね」わざわざ確認しなくてもいいようなことを確認するのが藤堂先輩の癖である。そんな藤堂先輩に向かって、回りくどいとか、わずらわしいとか思うのはナンセンスだ。実際、そういう女の子がいるから困る。藤堂先輩は外見が優しいから、もちろん心もだが、頼りなさそうに見えてしまうのだろう。正直最初は宮古もそう思っていた。けれど、藤堂先輩とずっと仕事をしていて宮古は確信している。藤堂先輩は凄い。

「はい、でも、」宮古は首を振った。「何も映っていなくて」

 藤堂先輩はしばらく監視カメラの映像を見ていた。再生速度を調節しながら見入っている。宮古は藤堂先輩の後ろでじっと待った。当たり前だけど時計の針はいつの間にか進んでいる。

「ん?」何の拍子もなく、藤堂先輩は疑問符を発した。

「どうしたんです?」宮古は藤堂先輩を覗き込んだ。大きな目が画面を鋭く睨んでいる。

「宮古さん、この映像、合成」

「え?」宮古は驚愕した。「え? だって、そんなことって出来るんですか!?」

「誰がどうやったかは分かりませんでもこの映像は合成です」

 藤堂先輩は早口で言った。それからはまるで魔法を見ているようだった。藤堂先輩は宮古が触ったこともないソフトを立ち上げ、とにかく宮古の分からない様々なこと監視カメラの映像に加えていった。それは機械に疎い宮古からすれば魔法だった。

「宮古さん」と藤堂先輩が手を加えた、いや、きっと加工前の状態の映像が再生される。

 その映像を見て、宮古は驚愕する。そこには映っていなかったものが映っている。いや、隠されていたものが露わになったのだ。露わになったのは、

「……麻美子?」

 それから人一人を担ぐ棗田と平安名の姿だった。担がれているのは赤城真奈以外に考えられない。

「麻美子さん、ですよね?」藤堂先輩が聞く。

「……麻美子」宮古は小さく呟く。

「では、事件の犯人は」

「……麻美子」宮古は小さく呟く。

「とにかく、この映像を証拠にして麻美子さんに話を……、って宮古さん?」

 宮古は完全に頭に血が上っていた。妹がお気に入りのパンツを盗んだという事実を知った姉のように頭が沸騰している。「……麻美子、麻美子ぉ」

「か、顔が怖いですよぉ」藤堂先輩は慄いていた。

「麻美子!」宮古は急に叫んだ。

「ひぃいいぃ!」藤堂先輩は悲鳴を上げて頭を隠した。

「麻美子ぉおおおおおおぉ!」宮古は全速力で第四詰所から出ていった。



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