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(私を苦悩させるさまざまな女の子たちの)ミソラ  作者: 枕木悠
第五章 Hello,My Friend(ハロウ・マイ・フレンド)
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第五章①

ミソラのコレクションルームのフローリングの廊下。洗濯工場に労働へ赴く支度を整えた真奈とそれを見送るミソラとなんとなく真奈のそばにいたいフィーリングのかなえがいた。

「あ、そういえばまだかなえに了解を貰ってなかった、ごめん、かなえ、」真奈はかなえに向かって両手を合わせて目を閉じた。「しばらくの間、梨香子さんを貸してね」

「真奈、無理に外に出る必要はないんだぞ」かなえの横のミソラが言う。ミソラの表情は初めてのおつかいに出かける五歳児の母親の玄関先の顔だった。

「無理なんてしてないよ、ずっと田舎暮らしだから落ち着かないんだ、お日様を見ないと」

「真奈は向日葵みたいだ」

「じゃあ、ミソラは太陽?」

 真奈がそう返すとミソラは悩んだ。「……どういう意味だ?」

「真奈さん、ちょっと分からないんだけど、」かなえは言った。突然届いた小包に戸惑っているような顔だった。「どうしてリカちゃんを貸さないといけないの?」

「あ、やっぱりダメ?」

「べ、別にリカちゃんは私のアクセサリーでもなんでもないし、そもそも私に断る必要なんてないと思うけど」

「ありがとう、かなえ、一応断っておこうと思って」

「いや、だからなんで? なんでリカちゃんを貸さないといけないの?」

「梨香子さんには事情を話しているんだけど」

「……聞いてない、」かなえは胡乱な目をしておさげを弄る。「昨日から一言もしゃべってない」

「うそ、」てっきり真奈は仲直りしていると思っていた。というか、何もしなくても自然に元に戻るような関係だと思っていた。そういえば、朝食と昼食のとき、とてもおいしいご飯を食べながら二人の直接な会話がなかったような気がする。かなえが明るかったから真奈は心配しなかったし、真奈はミソラとのかみ合わない言葉のキャッチボールに夢中だったから、だから分からなかったのだろう。鈍感と言われればそれまでだが。「まだ、喧嘩中?」

「喧嘩ていうか、」かなえは真奈のジャージのファスナーを上げたり下げたりしている。その行為にどんな意味があるのか、真奈にはハッキリと分からない。でもなんとなく、かなえは梨香子のことで様々なことを真奈にぶちまけたいのだなぁと感じた。「よく分かんない、意地の張り合い? 意地も何もないんだけど、原因もよく分かんないし」

「ちょっと私も余計なこと言ったよね、お風呂場で、ごめん」

「どうして真奈さんが謝るのよ、悪いのは全部リカちゃんよ」

「それは言い過ぎでは?」

「ごめん、言い過ぎた、」かなえはしょんぼりと何かを後悔してすぐに首を横に振った。「いや、いい過ぎじゃないもん!」

「なんの話しだ?」ミソラは二人のやり取りに『?』マークだった。

『内緒』真奈とかなえの声はユニゾンして、思わず笑い合う。『ねぇー』

「いいさ、私は真奈のこともかなえのことも詳細に知っているから」

「それ、負け惜しみ?」真奈はミソラをからかう。

「真奈さん、洗濯工場から帰ってきたら、あっ、夕食の後、寝室で、ううん、やっぱり、お風呂でいいかな」

「え、何?」

「二人っきりでおしゃべりしたいな」

「いいよ」真奈は頷く。

「ありがとう、」かなえは両手の指先を合わせた。「とても楽しみ」

「真奈っ、」ミソラが真奈の袖を引っ張る。「今日は私とお風呂の予定だぞ」

「え? そんな予定知らないけど」事実、真奈は知らなかった。

「じゃあ、」かなえもミソラの予定に従順である。「寝室で話そう、鍵を閉めて」

「うん、それがいい、」ミソラが腕を組んで首を縦に振る。「いや、鍵は閉めたら駄目だ」

「で、なんだっけ?」真奈はかなえを見る。

「リカちゃんのこと、なんで洗濯工場に?」

「ミソラがさ、うるさいんだ、」真奈はミソラの後頭部を撫でる。緑色の髪の毛が人形のようで可愛がりたくなる。「この子、私がどこかに行っちゃうのが嫌なんだって、困るねぇ、不自由だわ」

「梨香子は真奈のボディガードだ」

「ボディガード?」

「狙われてるんだって」

「誰が?」

「私」真奈はクスッと笑った。

「まさか、」かなえはミソラを見た。ミソラの真剣な顔を見てもう一度言う。「まさか、誰が?」

「怪物、真奈を苦しめる怪物さ、でも、梨香子がいれば安心だ」

「ミソラってば心配性なんだよね、私がいなくなるのがそんなに嫌?」

「当たり前だ」

 予想していた回答が返ってきて真奈はとてもうれしそうに微笑み、ミソラの後頭部を優しく小突く。「もう、こいつ」

「なんか、変、」かなえが真奈とミソラのやり取りを見て不審がる。「ああ、でも、朝食も昼食もおいしいご飯を食べながらのろけてた、ようなきがする、でも、変だよ」

「変じゃないよ」真奈が答える。

「そういうんなら、そうね、深夜の寝室で全てぶちまけてね、分かりやすく、単純にね、ピロートークだね、ああ、早く夜になれ、こういう気持ちは久しぶりで楽しいな」

 そのおりリビングからジャージ姿の比奈と梨香子が出てきた。梨香子は昼寝をしていたからまだ目が半開きでふわふわとしていた。かなえは梨香子の脇を通ってキッチンに戻った。本日は図書館勤務の労働はないらしい。かなえは梨香子とすれ違ってから振り向いて小さくベロを出して赤目を出した。真奈にだけ確認できて思わず笑ってしまった。可愛かった。かなえをもっと大事にしなさいと梨香子に説教したくなるほど魅力的なあっかんべだった。

「じゃあ、行こうか、洗濯は久しぶりだけど、頑張るよ、真奈ちゃん」

 梨香子が欠伸をこらえながらそう言った。

「真奈、ファスナーが下がっていてよ」比奈がお嬢様っぽい口調で言ってキュッと首までファスナーを締めてくれた。

「ありがと、」真奈は言ってからミソラに手を振る。「じゃあ、行ってくるね、ミソラ」

「邪悪な怪物の、」ミソラは手を振りながら言った。「紅涙に気をつけろ」



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