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第二章⑤

「藤堂せんぱーい、只今戻りましたぁ」

マーブルズの第四詰所に戻ると宮古はパソコンを立ち上げた。起動するまでに宮古はウサコとアリスにコーヒーを入れてくれた。起動すると宮古は椅子に座り、カタカタとキーボードを叩き始めた。

「何をしているんですか?」両手でカップを口に当てながらウサコは聞く。ウサコとアリスの方からは画面が見えない。

「午後十時から午前五時の間、正門を通った人はいないわ、誰も出入りしていない」

「そんなことも調べられるんですか?」

「何でも分かるわけじゃないけれど、それくらいは調べられるわ、お金がかかってるから、」宮古はいやらしい顔をした。「……正門が開かれたのは五時五二分が最初ね、鴨沢運輸のトラックが二台、いつもこの時間帯に納品にくるみたいね、それ以外は、……ほとんど業者のトラックね、五時、六時台に出入りしているのは、宇佐美ちゃんは何時ごろに目を覚ましたんだっけ?」

「七時半ちょっと過ぎくらいだったと思います」

「いないな、登校している生徒はいるんだけど、正門から外に出た生徒はいないな」

「そんなことまで分かるんですか?」ウサコが聞く。

「正門のカメラが女の子を判別して人数を記録しているわ」

「もしかしたら、真奈さん、荷物を一杯に背負っていたからカメラが判別できなかったかもしれません」

「そうかもしれないわね、でも、」宮古は頬杖ついて画面越しにウサコを見る。「そんな特徴的な女の子が通過したら、正門の第一詰所の人が何か記録しているはず」

「そうですか、」ウサコは落胆する。「じゃあ、真奈さんは一体?」

「大丈夫、まだ可能性は残ってる、」宮古はそう言ってパソコンの画面をウサコとアリスに向けた。モノクロの映像が画面に四分割されて映っている。監視カメラの映像だった。それぞれ画面の隅であったり遠かったりしているが鳩笛寮の扉を映している。「赤城ちゃんは絶対に監視カメラに映っているはずよ」

 宮古は絶対の表情で言った。ウサコも頷いた。

「見落とさないように皆で確認しましょう」宮古はアリスの隣に腰かけた。

映像は三倍速で午前零時から始まった。途中でアリスは何回もうとうとした。そのたびにウサコはアリスの頬をつねった。見終わったのは四限の終了のチャイムとほぼ同時だった。ウサコが寮から出ていくのを確認するまで見た。真奈はどこにも映っていなかった。アリスが順調にスヤスヤして、宮古が腕と足を組んで様々なことを考えている中、ウサコは執拗に監視カメラの映像を確認した。しかし、真奈がどこにも映っていないことは明白だった。監視カメラの映像では動くもの、人、猫、あるいは鳥などの輪郭に赤いラインが引かれ、見落とすことはほとんどないようにお金がかけられているからだ。ウサコは低い声で叫んだ。「なんで!? なんで映っていないのですか!?」

ウサコはパソコンの画面を揺らした。

「こら、宇佐美ちゃん」宮古は制止する。

「あっ、」とウサコは我に返ってパイプ椅子に腰を下ろした。「ごめんなさい、すいません、私」

「……宇佐美ちゃん、少し私の考えを聞いて」宮古はウサコの肩に手を置く。

「はい」

「監視カメラには赤城ちゃんらしき人物は映っていない、けれど赤城ちゃんも赤城ちゃんの荷物も宇佐美ちゃんが起きる七時半の段階で全て消えてしまっている、このことは矛盾するわ、どちらかが事実でどちらかが嘘、現実で両者はともに事実ではあり得ない、辛いかもしれないけど聞いてね」宮古は優しく言う。

「……はい」

「現段階でハッキリと分かることはないわ、でも、これら少ない材料をもとに私の立場から推測すると、」宮古はパソコンの画面をくるりと反対側に回してウサコの体面に座って顔を画面に隠した。「最初から転校生、赤城真奈という人物はいなかったということになるわ、長い間ルームメイトが欲しかった宇佐美ちゃんが生み出した妄想、あるいは幻覚」

「そんなことありえません!」ウサコは立ち上がって机を叩いた。

「宇佐美ちゃん、落ち着いて、あくまで一説、思いつき、そんなことはありえないのは私も分かってるから、確かにこの学園に赤城ちゃんは転校して来てる、データベースにはきちんと彼女の名前から始まる情報がある」

「だったらそんなこと言わないでください」ウサコは泣きそうになって両手で顔を隠してパイプ椅子に座り直した。

「ごめんなさい、ただ、そうとしか考えられないと思って、赤城ちゃんが寮から出ていないという可能性は?」

「朝に寮の皆が探してくれました」

「そう、……隠し部屋、なんてないわよね?」

「どうして転校生の真奈さんがそんなこと知ってるんですか?」

「そうね、ああ、行き詰ったなぁ」宮古は頭を掻き毟ってキーボードに突っ伏した。エラー音が鳴る。

「あの、監視カメラの映像が細工されたっていうことはないんですか?」

「ありえない、」宮古は即答した。「莫大なお金がかかってるのよ、このシステムには、ハッキングの形跡もないし、というか、ハッキングなんてありえない」

「そうですよね」

「宇佐美ちゃん、もう帰りなさい」

「え?」ウサコは宮古を壮絶な目で見た。

「違うよ、赤城ちゃんを見捨てるわけじゃない、コレからいろいろ策を講じてみるから」

「あ、ありがとうございます」

「何か新しいことが分かったら連絡して、こっちも連絡するから、ともかく今日は帰って休みなさい、疲れたでしょう、」宮古は優しく言ってくれた。「そこのカメラちゃんもちゃんと持って帰ってね」

 アリスは完全に爆睡していた。ウサコは後頭部をペンっと叩いて起こした。



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