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第二章③

 高等部校舎から一番近いマーブルズの詰所は第四詰所で、建物の作りは街の交番とさほど変わらない。壁はマーブル模様で詰所を取り囲むように極彩色の花々が植えられていた。ウサコとアリスはココアパンを食べながらここまで来た。滅多に詰所にお世話になることはないから少し緊張。けれど、真奈が行方不明で当てがないのだからプロに何かをして貰わなければならない。高い授業料を払っているのだからとアリスは言う。「言わば私たちはお客様だ」

 しかし近づいてみると詰所の明かりはついていなかった。

「お昼休みでしょうか?」当然ウサコたちはマーブルズのスケジュールは分からない。

「ごめんくださーい」アリスは詰所に入っていく。

「アリスさんっ」とウサコも後に続く。「勝手に入ってはっ」

「誰もいないね」

「誰もいませんね」

「誰かいませんか!」アリスは大きな声を張り上げながら詰所の奥に進んでいく。左手に扉があってアリスはノブを回した。

「アリスさん、駄目ですよ、勝手に」

「……ココで何してるのよ、あんたたち」

急に後ろから声がして驚いた。振り返るとマーブル模様の制服を身に纏った女性がいた。茶髪のロングヘアが乗せただけの帽子からはみ出している。目が大きくて吊り上っていて、鼻が高く、顔つきが厳しい。耳にはピアス。胸には宝石の散りばめられたロザリオ。本当に警備員だろうかと疑いたくなるようなファッションだ。第二ボタンまで開いている。手には購買のビニール袋。どうやらお昼を買いに行っていたようだ。

「あ、あの」ウサコはこういう雰囲気の人に慣れていないから言葉に詰まった。

「え、なによ」高圧的にウサコを見下ろす。まるで不審者扱いだ。

「すいません、」アリスがウサコの前に割って入った。「実はマーブルズの方にお願いがあってきました」

「マーブルズって、私たちのこと?」

「はい」

「何? お願いって」

「実は友達が行方不明になって」

「行方不明?」

アリスは真奈がいなくなったことを説明した。ウサコも説明に加わる。マーブルズの人は二人を椅子に座らせ、熱心に話を聞いてくれた。調書じゃないけれどいろいろメモを取っている。外見と違って真面目な性格のようだ。「要するに昨日転校してきた宇佐美唯子のルームメイトの赤城真奈が本日早朝に姿を消した」

「はい」ウサコが力なく頷く。

「冗談、」マーブルズの人はウサコの目を見て偽りないか確かめているようだ。「……じゃないよね」

「冗談なんて言いません」ウサコは震える声で答え、俯き、自分のスカートを見る。

「……元気出しなさい、」ウサコを見かねたのか、そういう優しいことを言ってくれる。素敵な女性だと思った。「とにかく、行きましょうか」

「どこに、……ですか?」

「現場よ、現場、何か証拠があるかもしれないでしょ?」購買の袋を持って詰所の奥に行きながらウサコに言った。「少し待ってて、……藤堂先輩、お弁当買ってきましたから、あとでちゃんと食べてくださいね!」

 どうやら奥にまだ誰かいたようだ。返事はなかったようだけれど。風邪でも引いて寝込んでいるのだろうか?

「さぁ、行きましょうか」

 その折り、三限目の開始を告げる予鈴が鳴った。「あっ、どうしましょう、講義に出席しないと」

「公欠届なら書いてあげる、お友達の方が心配でしょ? 問題を抱えていたら講義になんて集中できないでしょ? お勉強なんていつでも出来るんだし、取り返せる」

「ありがとうございます、あの、」とウサコは聞く。「お名前をまだ」

「ああ、ごめんね、」帽子を深くかぶり直して言った。「私は宮古、宮殿の宮に古いって書いて宮古、ココに勤務して二年になるわ、……ってあなた何してるの?」

 アリスがカメラを回していた。「あっ、お構いなく」

「丁度いいわ、現場をくまなくカメラに納めて頂戴」

「もちろん、そのつもりです」

「カメラが趣味なの?」

「いいえ、」アリスは首を振らずに答えた。「ライフワークです」

「あはは、ライフワーク? 面白い、宮藤アリスちゃんだっけ? 今学生のボランティアが一人もいないのよ、事務仕事も多いけれど、アルバイトとして雇ってあげてもいいよ、時給九百円、良かったらどう?」

「……拘束されたくないので」

「そう、残念、」宮古はデスクの引き出しから『只今学園内巡回中』の看板を取り出した。「宇佐美ちゃん、寮まで案内して」

 宮古は看板をドアノブに引っかけて扉の鍵を閉めた。

「はい、こちらです」

 ウサコとアリスと宮古は鳩笛寮に向かった。



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