第二章②
「遅刻なんて珍しいですね」ウサコは言った。
「目覚ましをかけ忘れた、迂闊だったなぁ、よりによってテストのときに」
「せっかく簡単なテストでしたのに」
「余計に凹む」
ウサコとアリスは肩を並べて歩いていた。一限目が終わり、二限目の講義室に向かって歩いていた。
「ねぇ、アリスさん、真奈さん知りませんか?」ウサコは話を切り出した。
「ん? そういえば、いないね、」アリスはそれぞれのペースで歩くクラスメイトを確認しながら言った。「どうしたの、サボり?」
「真面目な真奈さんがサボるはずありません、」苛立ちが言葉に出た。ウサコはアリスに当たっても仕方ないとすぐに首を振った。「ごめんなさい、アリスさん」
「別にいいって、それより真奈はどうしたのさぁ? 説明してよ」
「朝起きたら、どこにもいなくて」アリスが何も手がかりを持っていそうにないので悲しみが胸に込み上げてきてウサコの声は震える。
「何それ、神隠し?」
ウサコは立ち止まり、必死に堪えたが、結局涙腺が決壊してしまった。「うううああああぁ」
教科書とノートと筆箱を両手でギュウと抱きしめてウサコは泣いた。アリスは慌てて宥める。まるでアリスが泣かせたみたいだ。事実アリスの露骨な言葉のせいだが。ともかくアリスはウサコの肩を押して講義室まで歩かせて一番後ろの席に座らせた。ウサコはかなり努力して涙の栓を閉めた。
「一体何があったの?」アリスが聞く。
「分かりません、ほんと、何がなんなのか、悪い夢でも見てるみたい」ウサコはしゃくりあげながら言った。
「行方不明ってこと? 小ウサコみたいに?」
「そういうことになるんでしょうか? そういえばアリスさんは昨日なんで急にいなくなったんですか?」
「違う違う、私がいなくなったんじゃなくて、私がカメラのディスクを交換している間に真奈が突っ走っていったんだよ、小ウサコは無事見つかったの?」
「はい、小ウサコは見つかりました、ミソラっていう女の子が捕まえててくれたんです」
「よかったね、……もしかしたら真奈も誰かに捕まってるんじゃない?」
「捕まる?」その可能性は考えていなかった。でもそんなことはないと思う。だからといって他に何も思い浮かばないけれど。
「マーブルズには通報した?」
ウサコは首を振った。マーブルズとは明方女学園の女性のみで編成された警備隊のことである。制服がマーブル模様なので生徒の間ではもっぱらそう呼ばれている。
「昼休みに詰所に行ってみよう」
ウサコは頷いた。二限目の九十分は長かった。何回、溜息を吐いたか分からない。




