プロローグ⑩
それを見ていた梨香子は面白いものを見つけたような表情で何も言わずに踵を返した。廊下の角を曲がると階段の踊り場になっている。そこには例によって美少女がいた。アリスと同じ型のビデオカメラを持った、テレビドラマのヒロインに抜擢されてもおかしくない絶世の美少女。
「ねぇ、撮れた?」梨香子は壁にもたれおかしそうに聞く。
「ごめん、また、アングルが」
「ええっ? さっさと引き返して来ちゃったよ、まさかのキスが飛び出たからお役御免で引き返して来ちゃった、やる気もない喧嘩を吹っかけるのも退屈だったし、いや、でも、真奈ちゃんとは殴り合いの喧嘩をしたいな、仲間でもいいけど、ともかくこっちが殴っちゃいけないっていうのはしんどかった、ねぇ、一発殴らせてくれない?」
「いいよ、慰謝料はちゃんと請求するけど」
「冗談、帰ってサンドバックを蹴るからいい、そういえばかなえと比奈は?」
「二人とも帰ったんじゃない?」
「二人だけ? 早く私も帰らなきゃ」
「そうだね、かなえのおさげがもてあそばれちゃうよ」
梨香子が踊り場から廊下に向けて顔を出すと、真奈とウサコはもういなかった。美少女は例によってカメラを構えて走り出した。
「それにしても、」梨香子は呟く。「喧嘩にはセーラー服がよく似合う」




