立会い
「なんで俺がこんなことしなきゃならないんだ」
「ごめんなさい、先輩。でも、これで最後だからって…」
金内の友人を助けて以来、この周辺の不良がたくさん金内を襲ってきている。
「…んで、これで最後って言う話を、いったい何回聞いたことやら」
今日来ているのは、よく殴り合いの場になりそうな河原だ。
近くに橋はないが、目の前には石だらけの川が流れている。
そして、俺が座っているのは、その河原の堤防の上の方。
今は誰も周りにいないので、金内も俺の横で準備体操をしている。
「…今何時ですか」
「約束の時間の15分前。もう少ししたら来るだろうさ」
空は、雲がポカリポカリと浮かんでいる。
6割方は青空ではあるが、これから雨が降るという予想もある。
傘と救急箱は用意しているが、きっと、要らないだろうと思っている。
「来たよ」
向こうの方からバイクの轟音が聞こえてくる。
それも3台とか5台と言った数ではない。
「金内愛美だな」
バイクの先頭の白い服を着た男が金内に聞いた。
「そうですよ。あなたが、今回の挑戦者?」
「いや、俺らが、挑戦者だ」
そこには20人か30人ほどの男が、各々武装をしてバイクに乗っていた。
「…何かいるか」
「そうですね。まあ、ナイフ一本で」
「いつものか」
「ええ」
俺がさやから抜いた状態の、刃渡り6cmほどのナイフを、金内に手渡す。
「おい、姉ちゃん。俺らを見くびらないでほしいな」
「あら、見くびってなんかいないわよ」
笑っている金内が、妙に冷たい声で話す。
全員がバイクから降り、河川敷で金内一人をぐるりと取り囲む。
中には、銃のような物をもっている奴もいる。
「…いくぜ」
目で追える速度で、不良の一人が金内に角材を叩きつけようとした。
「そんな速さ」
クスッと笑って、風がその不良を包んだ。
「まだ、ダメね」
背中にナイフを一刺し。
死なないように、刺したのは背骨や肋骨といったところを避けていた。
「おい、じゃあこれでどうなんだ」
突然持ち出したマシンガンで、金内を撃ち始める。
「銃は卑怯じゃない?まあ、いいけど」
冷や汗を垂らしているマシンガンの男は、首筋にナイフを突き付けられている。
「あんたも、帰ってね」
「…いやだな」
そう言うと、マシンガンで殴りかかった。
だが、その先は、ガチャンガチャンと落ちた。
輪切りにされていた。
「だから、早く帰っていったのに」
「なっ…」
銃身を切られて、驚きの表情を浮かべる不良たち。
「さあ、次は?」
「こ、こいつ、化けもんだ…」
「あら、レディに向かって、化け物だなんて。失礼ね」
金内が笑いながら言った。
「さて、どうするの。これ以上したい?したくない?」
ナイフを向けながら、彼らに言った。
「…こうなったら」
リーダーのような男が、日本刀をどこからともなく取り出した。
「勝負だ」
「これで引き下がってくれるのだったら、いくらでもするわよ」
明らかに飽きてきている口調で、金内が言う。
不良がまっすぐに日本刀で袈裟切りを仕掛けてくると、それを左に避けて、すぐに喉元にナイフを突き立てる。
「勝負は決まったわね」
声一つ発せない不良を相手に、冷たく金内が言い放った。
「警察が来ないうちに、私は帰るわ。いい、これで最後だからね」
金内が言ってから、駆け足で俺のところへと戻る。
「思ったより時間がかかったな」
「ごめんなさい、先輩」
そう言って、手慣れているのですばやく片付け終わると、バイクの音が遠ざかっていくのを聞きながら、その場から立ち去った。
「あ、ご飯買うの忘れてた…」
その決闘の帰り、金内が思い出したように言った。
「このそばにスーパーあるから、そこで買っていけばいいさ」
「そうですね。あの…一緒に来てもらっちゃ、ダメですか?」
「時間あるし、行くよ」
俺はあんな死闘の後でも、平常心を保ち続けている金内が、すごいと思った。
俺なら、きっと無理だろう。
そう思いながらも、俺は手をつなぎながら、スーパーへと向かった。