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2.『神作画の施政』(レイアウト・ハザード)

緊急速報から数時間。

 この国の「画質」は、劇的な、あまりにも劇的な変化を遂げていた。


再び映し出された国会中継。

 さっきまでガタガタの線と濁った色で構成されていた議場が、今や実写を凌駕するほどの描き込みで再構成されている。


「……え、これ、アニメじゃないのか?」


俺は思わずテレビに顔を近づけた。

 画面の端々にまで、制作者の執念が宿っている。大理石の重厚な柱には、高い窓から差し込む木漏れ日が柔らかく反射し、空気中を舞う微細なチリ(埃)さえもが、透過光を浴びてダイヤモンドの粒子のようにキラキラと輝いている。

 ただの国会中継が、まるで劇場版のクライマックスシーンのような神々しさを放っていた。


そして、壇上に立つ「彼ら」が変わった。


「議事進行を妨げる『不要なカット』が散見されますね。――全部、リテイクだ」


議場に響き渡ったのは、鈴を転がすような、若く透き通った声だった。

 声の主は、新しく任命された【制作進行兼・官房長官】。

 彼が冷徹に、だが優雅に指をパチンと鳴らした瞬間――。


ひな壇で「熟考」という名の居眠りをぶちかましていた老議員たちが、音もなく画面から**消去デリート**された。


「なっ……わ、わしの議席が! 色が、色が抜けていくぅ!」


一人の老議員が、自分の指先から色が消え、透明な「原画」に戻っていくのを視認して悲鳴を上げる。だがその叫びさえ、新政権の圧倒的な音響(BGM)にかき消された。

 

 居眠り議員たちが座っていた「手抜きの空間」には、瞬時に新しいキャラクターが「着色インクペイント」されていく。

 そこに現れたのは、瞳に強いハイライトを宿し、国民の一人ひとりと目を合わせるかのように誠実な芝居をする若手議員たちだった。


彼らの背筋はピンと伸び、その制服スーツのシワ一つ、ネクタイの結び目一つにまで、繊細な陰影と命が吹き込まれている。


「……嘘だろ。政治家が、ちゃんと『人間』として動いてる」


今までの政治家が、ただそこに置かれただけの「動かない静止画」だったのに対し、彼らはまばたき一つ、呼吸による胸の上下、指先の微かな震えにまで意味を持たせている。

 誰一人として居眠りなどしていない。

 誰一人として、カンペを棒読みする「大根役者」はいない。

 彼らが語る政策の一文字一文字には、まるで物語を動かすための中核コアのような重みがあった。


これが、京あに政権(仮)。

 嘘という名の「中抜き」を許さず、すべてのフレーム(瞬間)に全力を注ぐプロフェッショナルの仕事だ。


変化はテレビの中だけではなかった。

 俺が胸の高鳴りを抑えきれずに窓の外を覗くと、いつものドブネズミ色だった住宅街が、映画のワンシーンのように鮮やかに色づいていた。


電柱から伸びる、パキッとした深い青色の影。

 風に揺れる紫陽花の葉先には、今にもこぼれ落ちそうな透明な雨粒が描画されている。

 下校途中の子供たちが笑い合う、その声の「響き」までがハイレゾ音源のようにクリアになっていた。


この国から、**「手抜き」**という名の絶望が消えたんだ。


「爆ぜろ現実リアル……弾けろシナプス……!」


今度は皮肉じゃない。

 俺は、心の底から叫びたい衝動に駆られた。

 こんなに美しい世界に書き直されたのなら、俺だって「背景のモブ」のままでいたくない。

 自分の人生という物語の、ちゃんとしたメインキャラとして、この光の中で生きてみたい。


「バニッシュメント・ディス・ワールド!」


俺は高らかに、テレビのリモコンを掲げた。

 闇に染まった過去のカットをすべて上書きするように。

 新政権が描き出す、この「神回」のような毎日に、自分自身という線を描き足すために。

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