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1.勇者編-6

「やったぁ!」


人間達の停滞を破ったのは、子供の声だ。

静かな空間に唯一響いた音に抗えず、ほとんどの人間がそちらを向く。


そこにいたのは声に違わぬ子供だ。

幼く柔らかい髪には光の光輪ができており、溢れんばかりの喜びを浮かべた表情とあいまって、

まるで天使のようであった。


天使は人間たちの視界に輝きを残しながら、軽やかに駆けだす。

保護者らしき大人の制止を置き去りに。

魔法での封印をしそこねた魔法使いの脇をすり抜け。

魔物の体液で汚れきった勇者の身を、ためらいもせずに抱きしめた。


「アインさん! アインさん、やりましたね! とうとう努力が実ったんですよ!」

「ああ、え……? なにがだ?」


張本人だというのに、未だ状況を理解しきれていないアインが、ようやく構えを解く。

そこでようやく、自分を抱きしめている子供が顔馴染みのビリーであることに気づいたからだ。


当事者ではないのに、少しえらそうにしながらビリーが腰に手を当てる。


「アインさんは、すごい力で街に侵入しようとしてきていたドラゴンを倒したんです」

「すごい力」

「不思議な光が放たれて、剣を振るった途端にずばーん! と!」

「不思議な光」

「あれはユニークタイプの光ですよ! さしずめ『一定数繰り返した動作を強化する』といったところでしょうか!?」


偉業を成し遂げたはずの青年が、子供の言葉を繰り返すという奇妙な光景が広がっていた。

そんな中、周りが喧騒を取り戻し始める。

彼らもようやく、今何が起こっているのか理解したのだ。


「さしずめ、って……お前、ユニークタイプ持ってないのに分かるのかよ」


ようやく現状を受け入れ、余裕を取り戻したアインが、専門家のように威張っている子供の仕草に笑みをこぼした時。 


突然の歓声が上がる。

全員の理解が今及んだと言わんばかりに揃えられた声だった。


「ドラゴンが倒されたぞ!」

「街は無事だ!」

「誰も死んでない!」

「倒してくれた!」

「冒険者学校の生徒がやったんだ!」


湧き立つ喜びの矛先は、全てアインに向かう。

子供に続けとばかりに、近くにいた者からアインに駆け寄っていった。

泣きながら感謝を告げる者、かかった体液を拭ってやる者、そのどれもがアインを讃えている。

たくさんの視線に取り囲まれるのは結構な圧だろうに、アインは照れくさそうに唇を緩めるだけだった。

なんの意味があるのかと思いつつも評価どおり現状を維持し続け、剣を振るい続けた。

その努力が、ついに実を結んだのだ。


アインが称賛を受けていた最中。

輪から外れ、別のことをしている者もいた。


「土魔法は予定通り発動してくれ。あのドラゴン以外になにがいるかわからない、穴は塞いでおこう」

「あ、う、うん」


仲間の魔法使いに声を掛けたのは、チャーリーだ。

彼はその後も手早く指示を出すと、自らも役目を果たすべく歩き出す。


その直前、チャーリーは一度だけ振り返った。

大勢に囲まれ、注目されている若者。

わずかに力を込めた瞼の奥に浮かんだのは、嫉妬か、あるいは危機感か。

瞳の色を表に出すことはなく、一度強く目を瞑る。

それっきり、チャーリーが表情を変えることはなかった。


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