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1.勇者編-1

魔王が勇者パーティとこっそりお話する話。

アルファポリスにて同内容を連載中。

勇者は魔王を倒す。

魔物は滅び、世界に平和が訪れる。

吟遊詩人たちが語る大抵の物語の筋書きはこうだ。


「魔王様。魔王様はどこにおられる?」


そこに魔王の詳細はない。

当然だろう。

魔王の存在意義は、倒されることだけだ。


「魔王様いません!」

「置き手紙だけありました!」

「またか! また人間の町に行ったのか、あのフリーダム馬鹿は!!」


だから、これは本来ならば誰も知らない物語。

最奥で待ち構えているはずの魔王がカジュアルにお出かけする、あり得ないはずの話だ。



1.勇者はかつて


魔王がいる。

人間という種族全体を脅かす、魔物を従えたこの世全ての悪だ。

なんとしても倒さねばならぬ。


しかし、強大な力を持つ魔王に、人間一人の力では敵うわけもない。

そこで創られたのが、『冒険者育成学校』。

各職業ごとの専門的な教育。

本来なら交流する機会のない異職種同士の連携を経験させる、多種多様な実習。

魔物退治を生業とする、冒険者の教育機関である。

国立ということもあり、潤沢な予算を持つ学校は施設も道具も豊富に揃っていた。

おかげで生徒たちはなんのわだかまりもなくその芽吹いた才能を真っ直ぐに成長させることができる──とは、いかない。


校内から別棟へ繋がる渡り廊下。

モザイクタイルが施された柱の間を、青年が一人歩いていた。

彼の名はアイン。

冒険者育成学校の戦士科に所属する生徒である。


「アイン! ねえ、待って!」


注意されない程度の速度で床を踏み慣らす足は、後ろから掛けられた声で動きを緩める。

振り返った彼の眉間には、深々とした皺が寄せられていた。

あからさまな不機嫌さに怯みつつも、声をかけた女生徒は言葉を続ける。


「勝手に演習室を抜け出しちゃ怒られてしまうわ。戻りましょう。私も一緒に謝ってあげるから」


先程まで演習用のグループを組んでいた彼女からのフォローに、しかしアインの眉間の皺は更に深くなった。


「謝る? 俺が? 謝るなら向こうだろう、『田舎もんと一緒なんて最悪だぜ、鼻が曲がりそうだ』なんて笑って!」


侮辱を口に出すことで、ぶり返してしまった怒りはヒートアップしていく。

入学して以降、溜まりに溜まっていた鬱憤は止まりそうもなかった。


「貴族優先でずっと使用権が来ずに待たされ続けた演習室で、そんなこと言われてみろ! あの嫌味ったらしい面を殴り飛ばさなかっただけ褒められるべきだ!」

「アイン、」

「大体この学校はおかしい! なんだって授業内容にテーブルマナーや礼儀作法が組み込まれているんだ? 魔物を倒すのにそんなこと必要ないだろう!」


常々抱いていた不満をひとしきり吐き出し、肩で息をするアインと女生徒の間に、しばらくの沈黙が降りた。

どう声をかけるべきか視線を彷徨わせ、そして女生徒は口を開いた。


「国営であるこの学校を卒業した一人前の冒険者は、いわば官吏と同じよ。任務の内容によっては国の代表として振る舞うことが必須になる。礼儀作法を習うのは当たり前だと思う」


思っていた以上に真面目な返答が寄越され、アインは言葉に詰まる。

その様子とは対照的に、女生徒の口はよどみなく動き続ける。


「私もあなたと同じ、都会とも呼べないような街出身の庶民よ。だからこそ、戦闘技術以外にも色々学ぶことのできるここに入学できたことを誇りに思っているの。他は必要ない、なんて言われると、その、すごく困るわ」

「そりゃ悪かったけど、」

「それに戦闘技術が一番大事みたいな言い方するけど、さっきの演習で負けたじゃない。実力のないあなたが何言っても説得力に欠けるのよ」

「うぐ」

「あと、鼻が曲がりそうなのは私もよ。汗臭いわ、アイン」


とどめ、と言っても過言ではなかった。

主張された意見のなんと理路整然として、攻撃力の高いことか。

アインと同じようにヒートアップしたらしい女生徒は、しかし後悔はないようだった。

むしろどこかすっきりとした表情さえ浮かべ、演習室へと帰っていく。

鋭すぎる言葉の刃に切り裂かれ、倒れ伏すアインを置いて。


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