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四、バーニングスピリッツスモーク(蚊取り線香)とチャラ男

ギンボは、暮方の事務所でアイスコーヒーをすすりながら、異常な集中力でスマホ画面にかじりついていた。

「……ギンボさん、そんな真顔で何見てるんですか」

ギンボは顎に手を添え、静かに呟いた。

「過去のM-1三回戦」

三回戦から見てる時点で、ただのファンではない。研究者だ。

僕が感心していると、ギンボのスマホが震えた。

画面を見た瞬間、眉がギュッと寄る。

「……タカシ、準備しろ。今日の依頼は“夜な夜なプゥゥンと鳴く悪霊”だ」

完全に蚊である。

バッグの中身を整えながら尋ねた。

「で、今日はミキヒサさんも来るんですよね?」

「おう。依頼人、元気がないらしくてな。テンションで空気を変える必要がある」

ギンボさんの幼馴染。数少ない、いや、唯一と言ってもいいギンボさんの友達だ。


依頼人は、うまく言えば“繊細な青年”。

悪く言えば“寝不足でゾンビ化した青年”。

「せ、先生……夜になると……ぷぅぅん……ぷぅぅんって……部屋の角で……群れて……」

ギンボは力強く依頼者を見つめる

「それは危ない!悪霊の群れだ!」

いや、たぶん虫の群れだ。


依頼人は震える声で続けた。

「寝不足で……身体がだるくて……やる気も出なくて……

これ、霊的な……アレですよね……?」

そのとき――

「まいどぉぉ〜〜ぉぉ! ミキヒサ降臨ぃぃぃん! ポォーーウ!!」

白ジャージ上下に金ネックレス。

いきなりテンション最高潮のミキヒサさんが飛び込んできた。

依頼人、僕、ギンボさん、全員がミキヒサさんを見つめたまま固まった。

完全にスベっている。

時が止まったと思うほどに。

「ちょ、近所迷惑になるんで……その……」

「よぉ〜〜ッ! タカスィ!!」

依頼人は怯えた子猫のような目で僕らを見比べ、

「え、え? どなたですか……?」

「依頼人さん! 気分アゲていこっ!

悪霊はテンション上げたら帰るから!」

「そんなわけないでしょ。あ、この人が追加の霊媒師です」

「この人が!?」

気持ちは、すごく、よく分かる。


ギンボが咳払いして真顔になった。

「タカシ、例の道具を」

僕はバッグから、丸っこくて愛嬌のある陶器のキツネを取り出す。

口から煙が出るタイプ。

「“バーニングスピリッツスモーク”だ」

ミキヒサ「強そ~」

依頼人「なんだかすごそうな見た目……!」

どこが!?

この人、絶対騙されやすい。


ギンボは静かに説明した。

「キツネの炎の霊力が闇を祓い、魂を浄化する……はずだ」

“はずだ”って言っちゃったよ!

ギンボがキツネの中に蚊取り線香をセットし、煙がふわぁ〜っと出始める。

「燃えやすいものの近くには置かないでくださいね。火災の恐れがあるので」

完全に蚊取り線香使用上の注意!


依頼人は恐る恐る聞く。

「先生……これ……蚊取り線香……?」

バレた!?さすがにバレるよね


ギンボ 「いやいや、よく言われるんですよ~。便宜上渦巻きにしちゃったから。見た目のせいで。しかし、これは私の霊力が込められたまったく違うものです」

依頼人 「なるほど」

なるほどじゃないのよ!

依頼人 「キツネにも…… 何か意味が……?」

ギンボ 「これはカワイイから」

依頼人 「なるほど」

いや、なるほどじゃないのよ!


「オーケー!ミキヒサも応援しちゃうよ〜!」

突然ミキヒサさんが“謎のダンス”を始めた。

たぶんクラブでやってるやつだ。

依頼人「え、えぇぇぇぇ……!?なんですか!?」

ギンボ「霊力を高めるための儀式だ」

いや絶対違う

依頼人 「なるほど」

だめだこの人!


すると突然

ギンボが部屋の角を見て低く囁いた。

「タカシ、来るぞ」

来る?

ギンボさん見えてるのか?

ミキヒサが、ふっと踊りをやめ、

チャラさがスッ……と消え落ちた。

そこにいたのは――

“本物の霊媒師”。

「……蟲だな。群れで一つの存在になる低級霊だ。

依頼人、魂吸われてんなコレ」

依頼人「え!? な、なんですか今の怖い話!」

ギンボ「ミキヒサ、任せたぞ」

ミキヒサ「任せろや、アイちゃん」

ミキヒサが両手を影に向けると、

キツネの陶器はコトン、と音を立て、

煙がゆらめく。

そして空気がビリッと震えた。

「――ぶっ飛べ」

風が一閃したように黒い影が霧散した。

依頼人「な……なにが起こったんですか……?」

ギンボ「よし、浄化完了。後はキツネに任せておけ」

いや、キツネは絶対関係ない。


「タカスィ、たぶん、お前もこういうの出来るんだぜぇ」

ミキヒサさんは冗談か本気かわからない。

でも――

僕の未来視は、霊能力の一種なのかもしれない。

そう思うきっかけにはなった。

最後までお読みいただきありがとうございます。初めての小説、連載なので、みなさまの評価があるととても参考になります。よろしくお願いします

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