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霊が見えない霊媒師と、未来の見える僕  作者: かわい灯


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3/18

三、肩の重みは、肩こりなのか悪霊なのか

昼下がりの事務所は、時間がゆっくり流れているかのような空気に満たされていた。

僕とギンボさんは同じタイミングでアイスコーヒーをすする。


その時、控えめすぎるノック。

続いて、そろ〜っと遠慮がちなドアの開き方。

「せ、先生……急なんですけど、今からいいですか」

入ってきたのはサラリーマン風の男性。


ネクタイはゆがみ、顔色は土壁のようだ

「どうしたんですか、その汗は」

「肩が……肩が重いんです……!

 なんか乗ってる感じがして……ズシーーーーンと……!」

ギンボはゆっくりと立ち上がった。


「ふむ……肩が……重い……とな」

依頼人は震えながらうなずく。

「先週から急に……!

 絶対これ、霊ですよね!?

 黒い女の霊とか、背負ってますよね!?」

——はい、思い込みタイプきた。

ギンボさんが一番輝く瞬間。


ギンボは依頼人の肩に手をかざし、

ゆ〜っくり息を吸い込み、

目を閉じながら鼻から吐き、肩に触れた。

インチキショーの開幕である。


「……これは重症だな」

「じゅ、重症!!!!?」

「よかったですね。先生の得意分野ですよ」

僕が軽いノリで言うと、

ギンボはキャリーバッグを開け、

上にぎっしり詰めている“銀色の袋”を取り出した。

僕はこれがなにか知っている。

漢字がやたらゴテゴテして、それっぽい雰囲気を出しているが、ただの湿布だ。


依頼人はごくり、と喉を鳴らした。

「せ、先生……それは……?」

ギンボは袋を掲げ、

まるで世界を救う聖杯でも持ち上げるように言った。

「“肩に貼るお札”――

 ディープクールエクソシズムだ」

「でぃ、でぃーぷ……!?

 なんですかその必殺技みたいな名前!!」

同じことを思う仲間がいた。

でも、ギンボさんのこういうネーミングセンス、僕はわりと好きだ。


依頼人は身を乗り出し、

「そ、それを貼ると……霊が取れるんですか……!?」

「徐々に浄化してくれる」

ギンボは神妙な顔で言ったあと、

さらに声を低くして、

「ただし……副作用がある」

「ふ、副作用……!?」

依頼人は息をのむ。


「めちゃくちゃスースーする」

それ、ただの湿布の特徴!


ギンボは依頼人をグっと見て

「耐えられますか」

依頼人は目を見開いた。

「……た、耐えてみせます!」

いや、だからそこまでの覚悟は要らないんだよ。


ギンボは袋からシートを取り出し、

依頼人は“伝説の武器が抜かれる瞬間”みたいな目でそれを見つめている。

ギンボは肩の上に手をかざし、呟いた。

「今からお札に霊力を込めます!悪霊よ……

 このディープクールエクソシズムの力、

 思い知れぇぇええ!!」

ピタッ。(湿布の音)


「ひゃあああああっ!!

 すごい……すごいスースーするっ!!」

「耐えるんだぁあ!」

ギンボは熱血教師みたいに叫びながら肩を指圧している。


依頼人は肩を回し、

「え!? 軽い……軽いぞ……!?

 本当に霊が……!」

ギンボはドヤ顔で、

「とりあえずディープクールエクソシズム 一週間分、出しておきます。

 寝る前に肩回しとストレッチも欠かさずに。

 また重くなったら、いつでも来てください」

ただの肩こり緩和方法の説明だ。思い込んじゃうタイプだから気が付かないのか


依頼人は深々と頭を下げた。

「先生……本当に……感動しました……!

 僕の肩に乗ってた黒い女の霊も……

 いなくなりますね……!」

いや、最初からいないけどね。


依頼人が帰ったあと。

事務所が静けさを取り戻した瞬間。

僕の背中がゾクっとした


僕の未来視に

——“叫び声と黒い影”が、ほんの一瞬だけ見えた。

ギンボがアイスコーヒーをすすりながら訊く。

「タカシ、なんか見えたのか?」


最後まで読んでくださってありがとうございます。みなさまの応援が励みになります。これからもよろしくお願いします

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