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霊が見えない霊媒師と、未来の見える僕  作者: かわい灯


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現代再開編・第八話:神に人生をリサイクルされていたので、世界の管理者に文句を言いに行く

光の穴を抜け、足がついた場所は、目もくらむような白銀の世界だった。

上下左右の感覚がない。ただ、視界の全てを埋め尽くす「光の粒子」が、穏やかな海流のようにゆらゆらと漂っている。


「……これが、ヨモツ様?」

タカシが息を呑む。

そこに人の形をした神はいなかった。

巨大な、あまりにも巨大な「光の渦」。

それは呼吸をするように収縮と膨張を繰り返し、漂う光の粒子を吸い込んでは、また別の色に変えて吐き出している。

「綺麗……だけど、なんか怖いな」 ミキヒサが身震いする。

「意思も形も……ないのか?」

ギンボの問いに、オオヒルが静かに首を振った。

「かつては意思も形も、そして慈愛もあったのです。けれど、この世界の管理を私に引き継ぐ際、力のほとんどを私へ分け与えてくださった。その結果、今のヨモツ様は、意思を持たぬタケハヤを輪廻させるだけの純粋な存在となりました……」

「じゃあ、今のあいつは、ただ拡散したタケハヤを吸い込み吐き出す装置なのかよ」

ギンボが呟くと、呼応するように光の渦がゴウッと唸りを上げた。 ギンボの体から、タケハヤのエネルギーが強制的に引き剥がされそうになる。

「うぐっ……! まだ俺を『回収』する気かよ……!」

「……言葉で説得できる相手ではないのは、分かっているな」

ツクユミが重い足取りで一歩前に出た。

今まで「門番」としてヨモツ様への道を拒んでいた彼の背中に、先ほどまでの攻撃的な気配はない。


ツクユミは光の渦を見上げ、深く、長く頭を下げた。

「……お母様。申し訳ありません。本来、姉上と共にこの世界を管理すべきでした」

ツクユミの声が、白銀の世界に染み渡るように響く。

「私が、私一人の力ではタケハヤを抑え込めぬと、貴女を頼りすぎてしまった。私が不甲斐ないばかりに、貴女をただの『装置』にしてまで、この輪廻を続けさせてしまった……」

「ツクユミ……」

「ですが、お母様。もう……その必要はなくなったようです」

ツクユミが振り返り、ギンボたち三人を指差した。

「見てください。タケハヤは、人の中で、人と共に生きる道を見つけました。……彼らはもう、貴女の浄化ゆりかごを必要としていない」

ツクユミは再び光の渦に向き直り、晴れやかな顔で微笑んだ。

「長い間、ありがとうございました。……そして、さようなら、お母様」

オオヒルも、弟の言葉に頷き、

「ええ。…………親離れの時です。このシステムを、優しく壊すのです」

ツクユミが三人に鋭い視線を送る。

「小僧ども、準備はいいか。……手を貸せ」

「準備って……どうすりゃいいんだよ」

ギンボが手のひらを上にあげる

「……筋肉男、貴様の出番だ」

ツクユミの指示に、ミキヒサが「俺かよ!?」と目を丸くする。

「タケハヤのエネルギーに、『拡散』の力を乗せて霧散させろ。そうすれば、ヨモツ様はそれを吸い込み、光の渦は拡散され、その役割を終えることができる」

「なるほどな……。お前らの覚悟、受け取ったぞ」

ギンボはふらつく足で立ち上がり、ミキヒサの肩を叩いた。

「やるぞ、ミキヒサ。……俺の中の全部、お前に預ける」

「おうよ! 任せとけアイちゃん!」

ミキヒサが両手を広げ、ギンボの背中に手を当てる。

「タカシ! お前は俺たちが吹っ飛ばないように結界張って支えてくれ!」

「はいっ!!」

三位一体。 ギンボが体内のタケハヤの封印を、今度は自らの意思で、静かに解放する。 溢れ出しそうになる漆黒のエネルギー。 それをヨモツ様が吸い込もうとする瞬間――。

「いっけぇぇぇぇぇッ!!」

ミキヒサが叫ぶ。 彼が修行で会得した『拡散ディフュージョン』の能力が、ギンボのエネルギーと混ざり合う。

破壊の塊だった黒い雷が、ミキヒサというフィルターを通して、透明な粒子へと細分化されていく。


シュワァァァァァァ……


炭酸が抜けるような音が響き渡った。 ヨモツ様に向かって放たれたのは、破壊の一撃ではない。 春の木漏れ日のような、暖かく、優しい光の風だった。

その風を受けたヨモツ様の渦が、ピタリと回転を止め、激しい脈動を、ゆっくりと穏やかな凪へと変えていった。

「……止まった」 タカシがへなへなと座り込む。

オオヒルが、静まり返った光の粒子に近づき、そっと手を触れた。

「お疲れ様でした、お母様。……もう、眠っていいのですよ」

その言葉に呼応するように、巨大な光の粒子の集まりは、無数の蛍の光のように各々漂い、そして弾け飛び、消滅していった。

後に残ったのは、どこまでも続く白い静寂だけ。

「……終わった、のか?」 ギンボが自分の手を見る。

そこにはまだ、タケハヤの力が残っている。

だが、以前のような暴れ回る感覚はない。静かに、血液のように脈打つだけの力。 「強制輪廻リサイクルは終了だ。これからは、この力と一生付き合っていくしかねぇみたいだな」

「フン。見事だ」

ツクユミが、腕を組んで三人を見下ろしている。 その表情からは、完全に険が取れていた。

「人間ごときが、神の作ったことわりを書き換えるとはな。……キイムラコマオウが、なぜ貴様らを育てたがったのか。少しだけ理解できた気がする」

ツクユミは、少し照れくさそうに鼻を鳴らすと、改めて三人へ、そして姉であるオオヒルへと向き直った。

「礼を言う。我ら姉弟もまた、長きにわたる呪縛から解き放たれた。……そして、侘びよう。不甲斐ない番人であったことを」

「いや、いいってことよ!」 ミキヒサが笑って、ツクユミの――コマオウの肩をバシッと叩いた。

「コマさんの身体で謝られると、なんか調子狂うけどな!」

「……気安く触るな、筋肉」 ツクユミは嫌そうな顔をしたが、その口元はわずかに綻んでいた。

「さて。お母様が消滅した以上、この空間も長くは持ちません」

「帰るぜぇ、現世へ」

「ああ。……腹減ったしな」

ギンボが伸びをする。 オオヒルが優しく微笑み、ツクユミが先導する。 神と人が並んで歩く。 それが、長い長い「神話」の終わりの光景だった。

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