現代再開編・第七話:神に管理された人生に、人間が異議を唱える話
荒れ狂っていた黒い嵐がオオヒルの『統率』の能力によって、嘘のように消え去った。
灰色の砂漠『ヨモツヒラサカ』に、二つの光が対峙している。
一方は、青白い月の光を纏う、ボロボロの作務衣の男。
もう一方は、黄金の太陽の光を纏う、純白の髪の裸身の女(ミキヒサが慌てて自分の上着をかけたため、今はジャージ姿だが)。
かつてのキイムラコマオウと、かつてのギンボヒロユミ。 だが、そこにいるのは紛れもなく、人知を超えた二柱の神だった。
「……姉上。またしても、我の邪魔をするか」
ツクユミ(コマオウの姿)が、苦虫を噛み潰したような顔で呟く。その声には、先ほどまでの絶対的な威圧感の中に、僅かな諦念が混じっていた。
「邪魔をしているのではありません。ツクユミよ」
オオヒル(ヒロユミの姿)は、倒れているギンボの頭を優しく撫でながら、静かに答えた。
「『修正』に来たのです。私たちが数千年前から続けてきた、この悲しいシステムを」
「『修正』だと……?」 ツクユミの眉がピクリと動く。
「タケハヤは穢れを吸い、破壊として撒き散らすだけの災害装置だ。意思を持たせれば、世界を滅ぼす。だからこそ我ら神が管理し、定期的に『初期化』せねばならぬ。それがヨモツ様との契約であろう」
「見てみなさい」
オオヒルは、足元で気絶しているギンボを指差した。
「この子は、タケハヤの力を『災害』ではなく『守る力』として使おうとしました。未熟で、乱暴で、危なっかしいけれど……それでも彼は、自分の意思でタケハヤの手綱を握ろうとした」
オオヒルは黄金に輝く瞳で、震えるタカシとミキヒサを見据えた。
「そして、それを支える人間たちがいる。……かつて私たちがタケハヤを封じた時代とは、違うのです」
「……」 ツクユミは沈黙し、タカシたちへと視線を向けた。 神の眼光に射抜かれ、タカシは思わず直立不動になる。ミキヒサもゴクリと喉を鳴らす。
「……ふん。未来視の小僧に、霊力馬鹿の筋肉男か」
ツクユミは鼻で笑った。その仕草は、不思議と生前のコマオウと重なって見えた。 「確かに。キイムラコマオウの記憶にある『ひよっこ』たちよりは、幾分かマシな顔つきになったようだ」
「コマさん……!」 ミキヒサがたまらず声を上げる。
「中身は違うって分かってる……分かってるけどよぉ! あんたがオレたちを試してたように思えちまうんだよぉ!」
ツクユミは目を細め、フッと視線を逸らした。
「……買いかぶりだ。我はただ、職務に忠実なだけだ」 そして、再びオオヒルに向き直る。
「姉上。タケハヤを『意思ある神』として新生させるというのか? それがどれほどのリスクか分かっているはずだ」
「ええ。だからこそ、私たちで『お母様』を説得しに行きましょう」
オオヒルは立ち上がり、砂漠の彼方、灰色の雲が渦巻く一点を指差した。
「ヨモツ様のもとへ」
一行は、オオヒルとツクユミを先頭に、灰色の砂漠を進んでいた。 ミキヒサは、まだ目を覚まさないギンボを背負っている。
「……なぁタカスィ」 ミキヒサが小声で囁く。
「これ、どういう状況だ? 俺たち、神様の兄弟喧嘩に巻き込まれてるだけじゃねぇか?」
「シーッ! 聞こえますよ!」
タカシは前の二人――神々を見ながら、冷や汗を拭った。
前を行く二人の背中は、あまりにも非現実的だった。
亡くなったはずの二人が、神の威厳を纏って並んで歩いている。
時折、オオヒルが何か話しかけ、ツクユミが面倒くさそうに相槌を打つ。
その光景は、どこか普通の姉弟のようでもあり、同時に近づくことさえ許されない聖域のようでもあった。
「……懐かしい匂いがする」
不意に、背中のギンボがうめき声を上げた。
「ギンボさん! 気がついたんですか?」
「……ああ。頭が割れるように痛ぇけどな」
ギンボは薄目を開け、前を歩く二人の背中を見て、息を飲んだ。
「……お母さんと、師匠か……?」
「今は中身が違いますけどね。オオヒル様とツクユミ様です」
タカシの説明に、ギンボは弱々しく笑った。
「へっ……とんでもねぇ参観日だな」
やがて、一行の前に巨大な「穴」が現れた。
砂漠の中央にぽっかりと開いた、底の見えない大穴。
その深淵からは、ゆらゆらと陽炎のような光の粒子が立ち上っている。
「ここが、世界の底……」 タカシが呟く。
その穴を見ているだけで、吸い込まれそうな恐怖と、母の胎内にいるような安らぎが同時に襲ってくる。奇妙な感覚だ。
「着きました」
オオヒルが振り返る。
「この底に、……すべての魂の源であり、タケハヤの輪廻を回しているヨモツ様がいらっしゃいます。」
ギンボが緊張した面持ちで言う
「この下か」
ツクユミが一歩前に出た。
「心せよ。ヨモツ様は、純粋な『理』そのものだ。貴様らの存在など、塵芥として処理されるかもしれぬぞ」
「上等だ」
ギンボがミキヒサの背中から降り、ふらつく足で立った。
「ここまで来たんだ……。俺の人生を勝手にリサイクルショップに出したオーナーに、文句の一つも言ってやらねぇとな」
オオヒルが微笑み、ツクユミが呆れたように肩をすくめる。 二柱の神と、三人の人間。
奇妙な一行は、世界の理を書き換えるため、光のあふれる大穴へと身を投じた。
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