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霊が見えない霊媒師と、未来の見える僕  作者: かわい灯


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現代再開編・第三話:有名観光地のヴェールを被った神の鎮座する土地

亜勢あせ神宮。

そこは、僕の予想通り、いや、想像以上に観光地だった。

「キャハハ! 自撮りしよー!」

「ねーねー、あそこの『恋結びソフト』食べようよぉ」

「見て見て大吉だってぇ~!」

神社とは思えない原宿かのような喧騒の中、タカシは、深く帽子を被りサングラスをかけたギンボと並んで歩いていた。

「タカシ、女の子ばっかり見てるなよ。特に、露出の高い子を見るときの、横目。怪しすぎるぞ」

「見てませんよ!(本当は見てる)ギンボさんだって、その深々かぶった帽子とサングラス、不審者感ありますよ!絶対、あいつ盗撮してるって思われてますよ!」

「うるせぇ……髪の毛が逆立っちゃうんだよ……。ちっ。なんで神社の境内にクレープ屋があんだよ……」


ギンボの顔色は土気色で、脂汗が滲んでいる。

無理もない。今の彼は、歩く高電圧発生装置だ。

バチッ、バヂヂッ。

彼がすれ違うたびに、女子高生のスマホ画面がブラックアウトし、自動販売機が「当たり」のファンファーレを誤作動で鳴らす。

「あーもう! 電気漏らさないでくださいよ! 損害賠償請求されますよ!」

「漏らしたくて漏らしてんじゃねぇよ! ……うっ、また波が……」

「ちょちょっ! 我慢してください!」

タカシは必死でギンボを抱え、縁結びのお守りを求める長蛇の列をかき分けた。

「すいません、通ります! 急病人が! 霊的な急病人が通ります!」

「なんだアイツら……」

「撮影? ユーチューバー?」

奇異な目で見られながら、二人は本殿の脇にある、鬱蒼とした森への入り口にたどり着いた。


『関係者以外立入禁止』の立て札。

その前には、インカムをつけた屈強な警備員が二人、仁王立ちしていた。

「ここから先は入れません」

警備員が冷徹に告げる。

「あ、あの! 僕たち、どうしても事情があって……」

「お帰りください」

「でも、人命に関わるんです!」

「お帰りください」

取り付く島もない。マニュアル通りの対応だ。

「ちょっと話を聞いてください!」

タカシが食い下がろうとした時、ギンボがよろりと前に出た。

「……どけ。通さねぇと、ビリビリさせちゃうぞ」

サングラスをずらしたその瞳には、危険な光と、バチバチと跳ねる黒い火花が宿っていた。

「ひっ……!」

警備員が後ずさり、警棒に手をかけたその時だ。

「騒がしいですね。どうしました?」


砂利を踏む音と共に、一人の老人が現れた。

白衣はくえに紫の袴。背筋はピンと伸び、柔和な顔をしているが、その眼光はカミソリのように鋭い。

この人、亜勢神宮のホームページで見た。たしかこの神宮の大宮司だ。

「ぐ、宮司様! この不審者たちが……」

大宮司はタカシを一瞥し、そして苦しげに膝をつくギンボを見て、目を見開いた。

「……禍々しくも神聖な気配」

大宮司がゆっくりと、ギンボの前に歩み寄る。

「君の名前は?」

「ギンボアイコウ」

まるで、長い時を経て再会した旧友を見るような目だった。

「君は……もしかして、ヒロユミさんの?」

ギンボが苦笑いのような笑みを浮かべる。

「……へぇ。お母さん知ってるんだ?」

大宮司はハッとしたように息を呑み、そして、深々と一礼した。

「封印の件ですね。言付かっております」

大宮司は顔をあげ

「道を。……お開けしなさい」

警備員たちが驚いて顔を見合わせる。

「し、しかし宮司様!」

「この方は、我々がお迎えすべき『賓客ひんきゃく』だ」


観光地の喧騒が嘘のようだった。

苔むした石段を一歩登るごとに、空気が冷たく、重くなっていく。

杉の巨木が空を覆い隠し、下界の音を完全に遮断していた。

「……すげぇ」

タカシは思わず声を漏らした。

森の最奥。

そこには、絢爛豪華な表の本殿とは対照的な、質素だが圧倒的な威圧感を放つ、小さな古いやしろが鎮座していた。

「ここです。ヒロユミさんがオオヒル様と契約を交わした場所は」

大宮司に案内され、二人は拝殿の中へと通された。

薄暗い堂内の中央に、一枚の古鏡が祀られている。

埃一つなく、青白く冷たい光を放つその鏡を見た瞬間、ギンボの荒い呼吸が、ふっと落ち着いた。

「……体が、楽だ。近づいただけで、体の内側から暴れてた雷が、静かになった」

ギンボがおそるおそる鏡の前に座る。

タカシも隣に座り、固唾を飲んで見守った。

鏡の表面が、ゆらりと水面のように波打つ。

映り込んだ自分たちの顔が歪み、そして、向こう側から気配がした。

ザザッ……ザザザッ……。

まるで電波の悪いラジオのようなノイズが、二人の頭の中に直接響いてきた。


『……タケ……ハヤの……器、……ヒロユミの……子よ……よく……耐えま……した…… 』


「!?」

タカシが飛び上がりそうになる。

ギンボは真剣な眼差しで鏡を見つめた。

「あんたが……オオヒル様か?」

『左様、まずは封印に霊力を補充しよう』

途切れ途切れの声は安定し、神としての威厳と、どこか懐かしい、母性のような温かさが混じっていた。

そして鏡から溢れる清浄な霊力が、ギンボの体から溢れていた黒いもやを洗い流していく。

「……とりあえず、暴走は免れたみたいだな」

ギンボが大きく息を吐き、肩の力を抜いた。


だが、すぐに鋭い視線を鏡に戻す。

「で、オオヒル様。聞かせてよ。俺の中にいる『タケハヤ』ってのは、結局なんなの? なんで俺が器に選ばれたわけ?」

『……よかろう。言葉で説くより、見るが早い』

オオヒル様の声と共に、鏡の表面が暗転した。

まるで電源の落ちたモニターのようだと思っていると、そこに白い光の粒で、可愛らしいアニメーションのような絵が浮かび上がった。

「意外とポップ!」

タカシは鏡に顔を近づけて驚く。


『これは、タケハヤという掃除機の物語じゃ』

「掃除機……?」タカシが眉をひそめる。

鏡の中で、小さな光のタケハヤが、黒いゴミ(悪霊)をパクパクと食べている。

食べれば食べるほど、光の塊は大きく、そして不安定になっていく。

『タケハヤは、世のよどみを喰らい、災害として排出し、浄化する機能システム。使い捨てのフィルターのようなものじゃ』

「フィルター扱いかよ……」

画面の中で、パンパンに膨れ上がったタケハヤが弾け、消滅する。

しかし、その中心にある「核」だけが残った。

すると、画面の上から、巨大な「黒い手」がニューッと伸びてきた。

『だが、核は不滅。そこで管理者である“ヨモツ様”が介入する』

黒い手は、まるでクレーンゲームのアームのように「核」をガシッと掴むと、問答無用で引き上げる。

そして、下界にいる新しい人間(赤ん坊の絵)の中に、その核を『スポンッ』と強引にねじ込んだ。

「うわぁ……」タカシがドン引きする。「扱いが雑……!」

『これが、ヨモツ様による強制輪廻じゃ。タケハヤに意思などない。器が壊れれば、ヨモツ様が次の器を選び、無理やりねじ込む。数千年、その繰り返しよ』

鏡の中では、無理やりねじ込まれた赤ん坊が泣き出し、また黒いゴミを食べさせられ、壊れ、また次の赤ん坊へ……という可愛らしいアニメーションとはギャップのある非情なループ映像が流れている。


ギンボは眉間にギュっと力を入れた。

「おいおい……ふざけんなよ。じゃあ俺は、その『ヨモツ様』ってやつの気まぐれなクレーンゲームで選ばれただけってことかよ?」

『左様。貴様の人生も、苦しみも、すべてはシステム上の誤差に過ぎぬ』

あまりに無慈悲な事実に、タカシは言葉を失う。

「そんな……。じゃあ、ギンボさんがどんなに頑張っても、死んだらまた……」

『うむ。次の器へ移るだけじゃ』

「……ハッ! なるほどね」 ギンボは逆に、不敵に笑った。

「つまり、その元締めである『ヨモツ』って野郎をぶっ飛ばせば、このクソみたいな無限ループも終わるってことだろ?」

『……ほう。神を、ぶっ飛ばす、と……?』

「ああ。俺は使い捨てのフィルターじゃねぇ。人間だ。そのヨモツ様に直接文句を言いに行く」

ギンボの啖呵に、鏡の向こうのオオヒル様が、少しだけ笑ったような気配がした。 その時、鏡の画像がザザッと乱れた。

『……面白……い……。だが……ヨモ……ツ様は……この世の……裏側……』

「あ、オオヒル様!?」

『……限界……じゃ……。ギンボ……よ……母の……愛を……無駄に……するな……よ……ザザッ……プツン』

鏡の光がフッと消え、ただの古い銅鏡に戻った。


大宮司は震えている

「いや、ヨモツ様といったら創造神とも呼ばれる生と死の神様ですよ。あなた、何をしようとしているか…… 」

ギンボは振り向かずに答える。

「そんなもんは知らん」

「あなたたちは親子そろって…… 」


ギンボの背中を見つめながら、大宮司が静かに口を開いた。

「二十数年前、いや、もう三十年くらい前かな。君のお母様がここに来た時のことを、今でも鮮明に覚えていますよ」

「オオヒル様との契約の時?」

「ええ。彼女は、生まれたばかりの君を私に預けて、三日三晩、この拝殿に籠っていました。飲まず食わずでね」

大宮司は遠い目をして、懐かしむように語り始めた。

「当時の彼女は、すでに霊媒師として名を馳せていましたが、その時の姿は……なりふり構わぬ、ただの母親でした。『この子の運命を変える力を貸りにきた』『私の命なんてどうなってもいい』と。」


タカシは言葉を失った。

あのノートに残された、少しお茶目で天然な記録。

その裏側に、こんな壮絶な過去があったなんて。

「我々も止めようとしました。神との契約なんて聞いたことがなかったですから。ですが、彼女の気迫に誰も近づけなかった。……中で何が行われているのかは分かりませんでしたが、やがて、拝殿から激しい光がバァーっと漏れ出て、そののちに、ずいぶん憔悴したヒロユミさんが出てきました。あんな奇跡は、私の長い神職人生でも、あれ一度きりです」


大宮司はギンボに向き直り、優しく微笑んだ。

「君は、愛されていたんだね」

ギンボは黙って鏡を見つめていた。

続いて彼は、自分のてのひらを見つめた。


「……タカシ」

「はい」

「帰ったら、特訓だ。……俺、やっと腹が決まったわ」

ギンボが立ち上がった。

その顔には、いつもの飄々とした仮面ではなく、確固たる意志が宿っていた。

「タケハヤだか、ヨモツだか知らねぇが……俺の人生を勝手にシステムに組み込んだこと、後悔させてやる。輪廻は、俺の手で終わらせる」


観光地・亜勢神宮の裏手。

ギンボの中で何かが確かに繋がった。

それは、母から子へ、そして神から人へと託された、覚悟という名のバトンだった。

「……あ、大宮司さん。ちなみに、『恋結びソフト』ってどこで売ってます?」

「……参道の入り口ですが」

「タカシ、帰りに食ってこうぜ。インスタ映えさせてやるよ」

「緊張感!!」

タカシのツッコミが、神域の森にこだました。

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