表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
霊が見えない霊媒師と、未来の見える僕  作者: かわい灯


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/18

現代再開編・第二話:最強の霊媒師は天然娘だった

夜のとばりが下りた旧保育園――現在、ミキヒサさんが管理する霊能力道場として使われている木造校舎は、しんと静まり返り、どこか遠くで水道の蛇口から水が滴る音が、メトロノームのように響いている。


「……っはぁ、くそっ……!」

道場の真ん中で、タカシは大の字になって天井を仰いだ。 汗が目に染みる。

今日だけで、何度目の失敗だろう。練り上げた霊力が、形になる前に霧散してしまう。


「向いてないのかなぁ……」

誰にともなく呟いた声が、高い天井に吸い込まれて消えた。 いや、違う。

どうにかしないといけないんだ。


壁の時計を見ると、すでに二十三時を回っていた。

「……鍵、預かってて正解だったな」

ミキヒサさんが「どうせタカスィ、夜遅くまでやるだろ」なんて言いながら、無造作に渡してきた鍵。その存在をポケット越しに確認する。


帰り支度を整え、見回りのために廊下に出た。 月明かりが差し込む長い廊下には、園児用の小さな手洗い場が並んでいる。

「……やっぱり、保育園なんだよなぁ」

かつてここで、アイコウ少年やミキヒサ少年が走り回っていたのだ。


ふと、視線が止まった。 園児用のトイレの向かい側。

他の部屋より、少しだけ古い木の引き戸。

色あせた木のプレートがかかっていた。

『園長室』


「ヒロユミさんの部屋か」


ギンボヒロユミ。

ギンボさんのお母さんで、かつて最強の霊媒師と呼ばれた人。僕はこれくらいしか知らない。


「き…… 気になる」

引き戸に手をかける。鍵は掛かっていない。

心臓が、少しだけ早くなる。

「失礼……しま~す」

誰もいないはずの部屋に声をかけ、そっとドアを開ける。


中は、思ったより狭かった。

折り紙で作った手裏剣や、クレヨンで描かれた「おかあさんへ」という似顔絵が、画鋲で大切に留められている。

「……ギンボさんが描いたのかな」


タカシは本棚に目をやった。 そこには、 様々な書類と、古い文献。

そして、導かれるように二冊のノートが目に入った。


一冊は、分厚く、背表紙が擦り切れている。

 もう一冊は、少し小ぶりで、何度も開かれた形跡があった。

 タカシは、恐る恐る手に取る。


『ギンボヒロユミ・記録』

「……ギンボさんのお母さん……」

 喉が、無意識に鳴った。

 もう一冊の表紙には、乱雑な文字。

『修行帳』

「……字、汚っ」

 思わず口をついて出た。


ぱらり、と『修行帳』を開く。

『封印術・第七式

 失敗。爆発。園児、泣く。反省』

「……爆発させたんだ」

 別のページ。

『式神試作

 犬型。動きがかわいい。言うこと聞かない。

 除霊の役には立たないが、なんか萌える。

思わず「きゃわー」と言ってしまう』

「『きゃわー』って……この人、天然か?」


くすくすと笑いながらページをめくっていく。

だが、ページが進むにつれて、タカシの手が止まった。


見たこともない複雑な計算式や、幾何学模様の魔法円が現れ始めたからだ。

『失敗。出力不足』 『失敗。術式の強度が足りない』


余白を埋め尽くす、「失敗」の文字と、修正案。

ミキヒサさんは「天才」なんて言ってたけど、彼女の試行錯誤、そして失敗の山。 このノートからは、彼女が「神のごとき天才」ではなく、悩み、失敗を繰り返す「人間」だったことが伝わってくる。

とんでもない研鑽の積み重ねをしていたんだ。


もう一冊――『記録』の方を開いた。


『封印経過・安定

 だが、油断は禁物』


『アイコウ、五歳

 感情の揺れと霊力の増幅が連動』


ページをめくる指が震える。 これは、母親の日記であり、研究者のレポートであり、そして――遺言だ。


追記。

『もし、封印が耐えられなくなった時は

 私がオオヒル様と契約した

 亜勢市の古社へ行きなさい』

 指が、文字をなぞる。

『あそこの御神体(鏡)の前なら

 一時的に、繋ぎ止められる』


「……亜勢市の、古社……」

 思わず声に出す。

頭に浮かぶのは、テレビで何度も見た大鳥居。

 観光客。修学旅行生。お土産屋。

「亜勢にある古社って、亜勢神宮か?めちゃくちゃ有名な観光地だよな。あんなところに本当にあるのか……?」


そのとき、視界が砕け散る!

視界に映ったのは、道場ではない。 事務所の床だ。 ギンボが、頭を抱えてうずくまっている。 その指の間から、どす黒い漆黒の雷がバチバチと溢れ出し、壁を、床を、焼き焦がしていく。


発動した未来視。

「……急がなきゃ!」

タカシは二冊のノートを鷲掴みにすると、道場を飛び出した。 夜の廊下を全力疾走しながら、彼は確信していた。 このノートこそが、唯一の希望だと。


事務所のドアを開けた瞬間、焦げ臭い匂いが鼻をついた。 そこは、さっき見た「未来」そのものだった。


「ギンボさん……!」

ギンボが顔を上げた。

「タカシ、こりゃ、限界近いな」

「諦めないでください! ヒロユミさんが……、答えを残してくれてます!

書いてあったんです!このノートに!」


翌日。

僕は緊急の仕事でいないミキヒサさんに「任せてください」とメッセージを送り、ギンボさんと観光客がひしめく亜勢神宮へと向かった。

最後まで読んでいただいてありがとうございます。

「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星、リアクションのポチっよろしくお願いします!

感想をいただければお返事させていただきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ