8話 女の子のフリ大失敗
(朝の木漏れ日。鳥の声が聞こえる)
リリサ「ティナー、起きなさーい!」
ティナ「……ふがっ。もう朝……?」
(寝ぼけながら鏡を見る)
ティナ(心の声)「(やっぱり……夢じゃなかったんだ……)」
(鏡の中には昨日と同じ、美少女の姿)
リリサ「まずは顔洗って、歯を磨いてらっしゃい。そのあと朝ごはんね。」
ティナ「はーい……(完全に母親ムーブだなこの人)」
――数分後、朝食後のリビング。
リリサ「じゃあ今日はこれ着て。昨日言った通り、ご近所さんへの挨拶と街の案内をするから。」
(差し出されたのは、淡いパステルイエローのフリフリワンピース)
ティナ「え!? またワンピース!? ズボンとかないの!?」
リリサ「似合ってるんだからいいじゃない。」
ティナ「そういう問題じゃなくて!!この格好で人前は……その、さすがに……恥ずかしいっていうか!」
リリサ「大丈夫。自分が気にしてるほど、他人は興味ないわ。」
ティナ「だからぁ!!そういう問題じゃないんだって!!……はぁ……」
(諦めの深いため息)
リリサ「じゃあ行きましょうか。まずはお隣のホビットのおじいちゃんとおばあちゃんの家ね。……あ、そうそう、大事なこと言い忘れてたわ。」
ティナ「?」
リリサ「くれぐれも“転生した”ことは秘密にしておくように。もしバレてしまったら……」
ティナ「しまったら……?」
リリサ「あなたも私も――打首ね。」
ティナ「はあぁあ!?!? なんで!?!?」
リリサ「転生魔法は違法だからね。だからバレないように。ちゃんと中身も女の子のフリしてね。」
ティナ「なんでそんな危険なことしてんの!?!」
リリサ「なんでって……一人は退屈だし、何より妹がずっと欲しかったのよ。
可愛い服を着させて、髪をアレンジして、『可愛い!』って遊びたかったの。」
(沈黙)
ティナ「……」
ティナ(心の声)「(この人……やばい人だ……下手に逆らったらアカン……)」
――しばらくして。湖畔沿いの道を歩く二人。
リリサ「わかった? ちゃんと“女の子して”ね?」
ティナ(心の声)「(俺だってだてに30年以上生きてきたわけじゃない。フリくらい余裕でできるわ!)」
ティナ「任しとき!」
――ホビット夫妻の家の前。藁葺き屋根の昔ながらの日本家屋の様な家。
ホビットおばあちゃん「あら、リリサちゃんいらっしゃい。」
リリサ「こんにちは、おばあちゃん。今日はちょっと挨拶に。
ティナという子なんですけど、私の遠い親戚で。しばらくうちで預かることになったんです。」
(リリサの影から、ひょっこり顔を出すティナ)
ティナ(心の声)「(女の子のフリ……女の子のフリ……)」
ティナ「こ、こんにちは! ですわっ!」
(リリサ、吹く)
リリサ「ブッ!!……ご、ごめんなさい、この子ちょっと人見知りで……!」
(肩を震わせながらティナを肘で小突く)
ホビットおばあちゃん「あらあら、めんこい子だねぇ。立ち話もなんだからお上がり。」
リリサ「ありがとうございます。でも今日は買い物もあるので、また今度伺いますね。」
(おばあちゃんに見送られ、家を離れる二人)
ティナ「……“ですわ”はダメか……」
リリサ「うん、致命的に似合わないわね。」
ティナ「うるせぇ!!」
(リリサ、くすくす笑う。ティナ、顔を真っ赤にしながら歩く)