初冬に現れた、右手のお嬢様
『えるてん!』は
毎朝6時に更新中!☀️
通勤・通学、朝ごはんのお供に
ティナたちのほのぼのな一日をどうぞ♪
今日も“えるてん!”で、ちょっと笑顔になれますように✨
(初冬の夜。外は冷たく澄み、空には小さな星々が瞬いていた。
湖畔のロッジ──フローレンス家の煙突から、細い煙がたゆたう。)
リビングでは、リリサが暖炉の準備をしていた。
パチ、パチ……と薪がはぜる音が、冬の夜を満たしている。
リリサ「ティナー、外の薪、少し持ってきてー。今夜は冷えるわよ。」
ティナ「はーい! いよいよストーブの季節だー!」
その時、玄関の方から「コンコンッ」と控えめなノック音。
ティナ「……? こんな時間に誰だろ?」
(扉を開けるが、外には誰もいない。しんとした夜気だけが流れ込む。)
ティナ「……イタズラ、かな?」
──ボトッ。
(何かが足元に落ちる。ティナ、反射的にのけぞる。)
ティナ「ひっ……!」
(足元を見ると、そこには――
肘までの“右腕”。手のひらが地面を押してカサカサと、器用に動いていた。)
ティナ「ぎゃあああああああああああっっ!!!!!」
(絶叫。薪どころではない。)
リリサ「な、なにごと!?!?」
(玄関に駆けつけると、ティナは気を失って倒れていた。
その横で、右手がまるで心配そうに指をもぞもぞと動かしている。)
リリサ「……ほんとに何事なのこれ。あなた、一体……?」
(右手はぴたりと止まり、慌てたように親指と人差し指で輪を作ったり、文字を書く真似をしたり。
リリサには通じていない。)
リリサ「ふむ……悪い魔物って感じではなさそうね。
とりあえず、中に入りなさい。ここじゃ冷えるでしょう。」
(右手、親指をピンと立てて同意。カサカサと家の中へ。)
---
(数分後。リビングにて。ティナが目を覚ます。)
ティナ「う、う〜ん……あれ……? 何してたっけ……?」
(視線を上げると、テーブルの上に“右手”。)
ティナ「ひぃぃぃっ!! 侵入してきたぁぁぁ!!」
リリサ「落ち着いてティナ。悪い子じゃないみたいなの。
ねぇあなた、文字は書ける?」
(右手、人差し指と親指で丸を作ってOKサイン。)
リリサ「よし、ちょっと待っててね。」
(ペンと紙を用意すると、右手がペンを握り、優雅な筆致でさらさらと書き始めた。
まるで書の達人のような美しい流れ。紙の上には、絹のように滑らかな文字が並ぶ。)
---
右手
> 夜分遅くにお邪魔いたしますわ。
わたくし、道に迷ってしまいまして……お恥ずかしながら、帰り道が分からなくなってしまいましたの。
もしご迷惑でなければ、魔王国へ向かう道をお教えいただけませんこと?
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ティナ「(な、なんだこの高貴オーラ……!
筆跡から貴族臭が漂ってる……てか、これ絶対お嬢様だろ……!)」
リリサ「なるほどね。魔王国へは、この家を出て湖沿いを南に進めば大通りに出るわ。
あとは西へ行けば国境門があるから、それを抜ければすぐよ。」
(右手はすっと立ち上がり、人差し指と中指で“足”を作って一歩進む。
そしてそのまま膝を折るように、深々とお辞儀をした。)
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右手
> あぁ……なんとご親切に……!
まことに感謝申し上げますわ。
このような姿でなければ、直にお礼を申し上げたいところですのに……。
皆さまのご厚意、決して忘れませんわ。
---
リリサ「いいのよ、気にしないで。もう遅いけど、今から帰るの?」
右手
> ええ、家族もきっと心配しておりますもの。
早く帰って安心させてあげませんと。
それでは──本当にありがとうございましたわ。
(書き終えると、右手はリリサに向かって優雅に一礼し、
静かにドアの方へ。
カサ、カサ……と、星々が見守る中、右手のお嬢様は
夜そのものに溶け込むように、静かに姿を消していった。)
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ティナ「……なぁ、リリサ。」
リリサ「ん?」
ティナ「手の家族ってどんなの?」
リリサ「……さぁ?右足とかじゃないかしら?」
ティナ「……そっか。それとさ。」
リリサ「ん?」
ティナ「今の……めっちゃ怖くなかった?」
リリサ「……正直、めちゃくちゃ怖かった。」
(手が小刻みに震えている。)
ティナ「やっぱ年の功ってすげーな……。あんな顔して平然としてたし。」
リリサ「震えながらね。」
(パチ、パチと薪がはぜる音。
外では澄んだ夜気の中に星が瞬くように輝いていた。)
――そしてその夜、
森のどこかで、“右手のお嬢様”は優雅にお辞儀をしながら、魔王国への道を進んでいたという。
次回【少女たちのくしゃみ事情】
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