勇者旅立つ!
最近太ってきたから、太っていてもかっこいい大人を描いてみました!
王都・王立療養院。
そこは本来、重傷を負った王国騎士や高官たちが静養する場所。
しかし今――
ベッドの上で全身を包帯でぐるぐる巻きにされた男が、天井を見つめていた。
ロイド=バルザック。
かつて世界を救った伝説の勇者。現在――ミイラ勇者である。
「……かゆ……背中の……真ん中だけ……」
誰に聞かせるでもない呻き声。
かつて世界を救った男とは思えぬ無様な姿だった。
カチャ、と病室のドアが静かに開く。
「……こんにちは」
現れたのは、クレア=ヴァレンタイン。
王国騎士団第一部隊隊長。手には果物カゴ。
「おお……来たか。悪いな、こんなとこまで……」
ロイドは、かろうじて動く口元でかすかに笑ってみせる。
クレアはベッド脇の椅子に腰を下ろし、無言でロイドを見つめていた。
そして、少しだけ視線を逸らす。
「……少し、心配しました」
ロイドの表情がほんの少しだけ動く。
「へえ……氷の女騎士様が、俺なんかを心配してくれるとはね」
「……」
「……ま、全部お前がやったんだけどな」
クレアは一拍おいて、ふうっとため息をつく。
「いや…….ゲロをかけられたら誰だってキレます」
「いや、それはほんと申し訳ないけどさ……そもそもお前が攻撃やめてくれないからじゃない?」
「私が結構頑張って攻撃してるのに、10%ぐらいしか出てなくない?なんて言われたから腹がたったんですよ」
「……確かにそれは配慮不足だったかもね」
「そうですね。私は怒って当然でしたね」
ロイドはしばし黙ってから、疲れた声で返す。
「……譲り合いって知ってる?」
「知りません」
「へぇー。すごいね……」
そこへ、病室のドアがコンコンとノックされ、神殿の技術者が顔を出した。
「失礼いたします、ロイド様。サポーターの検証結果をお持ちしました」
「あー、例の“30%出てるはずが10%も怪しいやつ”ね……で、結局どうだった?」
技術者は申し訳なさそうに言った。
「はい。勇者さまのおっしゃる通り約10%に身体能力が抑えられていました」
「やっぱり?全然力出なかったんからおかしいと思ったんだよ」
「すいません。もっとデブで実験しておけば良かったです」
「きついなお前」
クレア「まあ……事実ですし」
「つら」
技術者は咳払いをして続けた。
「現在の勇者様の体重、筋量、熱発散率、膝関節の角度、そして……身体能力を再度計算した結果ですが……」
「現状、勇者様に合うこれ以上のサポーターの開発は困難、という結論に……」
「ダメじゃん!」
「はい……今回のサポーターもなんか奇跡が起きてたまたまいい感じに出来たものでして……」
「科学者が奇跡起きたとか言わないほうがいいと思うよ?」
「……すいません」
病室に、沈黙が落ちる。
しばしの後、ロイドがぽつりと呟いた。
「……でもな。サポーターがダメってのもそうだけど、もっと大問題があるんだよなー……」
クレアが少し眉をひそめる。
「大問題?」
「ああ……」
「俺の--スタミナ不足だ」
「でしょうね」
即答だった。
ロイドは数秒固まってから、枕に頭を沈め、天井をじっと見つめた。
「……そうだな」
「今の俺は、実力を発揮しきれないどころか――“長期戦もできない”身体だ」
「このまま魔王と戦ったところで、返り討ちに合うのは火を見るより明らかだ」
「だから……」
「昔の仲間を探す」
「お仲間ですか?」
彼は静かに目を閉じ、昔を思い出すように口を開く。
「俺が“勇者”だった頃……
支えてくれた連中がいた。誰一人欠けても、魔王なんて倒せなかった」
「今の俺は、あの頃よりずっと弱い。だから、もう一度、あいつらを頼ろうと思う」
クレアは、その言葉を静かに受け止める。
「……居場所はわかるのですか?」
「だいたいはな。ただ……会いに行くってだけじゃ済まない奴もいる」
ロイドは口角だけ少し動かした。だがその表情には確かに影が混じっていた。
「まず最初に会うのは――アレックス=グレンデルだ」
「アレックス……グレンデル。武神と呼ばれた武闘家ですね?」
「ああそうだ……ちょうど近いし。それに、個人的な因縁もあるしな」
クレアは少し姿勢を正した。
「因縁……?」
「ああ。あいつは仲間にしてはいけないことをした。1発ぶん殴ってやらなきゃ気が済まなかったところだったんだ……」
拳を握るロイド。
その声には、これまでにない鋭さがあった。
どこか怒気を含んだ低音に、クレアはほんのわずかに肩を揺らす。
クレアは静かに姿勢を整え、真剣な表情でロイドを見つめた。
「……わかりました。何があったかは聞きませんが、同行させていただきます」
「いいのか?俺のわがままに付き合わせることになるぞ」
「構いません。私は騎士です。……そして、あなたは、世界を救おうとする勇者ですから」
その言葉に、ロイドはほんの少しだけ、目を細めた。
「よし。じゃあ、治ったら出発するか!」
それが世界の命運に関わる旅の第一歩になるとは――
この時、誰も知る由はなかった。
小説書くの初めてです!
アドバイス&感想、なんでも教えてください!