クレアの本気!!サポーター大実験!
最近太ってきたから、太っていてもかっこいい大人を描いてみました!
楽しんでください!
王都・中央闘技場。
普段は王国騎士の演習に使われるこの場所で、
今日はとんでもない“実験”が始まろうとしていた。
「よし、試してみるか」
ロイドは、新品の“加護付きサポーター”を膝に着用し、確かめるように地面を踏んでいた。
その脇で、技術者風の男が誇らしげに説明を続ける。
「膝の負担を大幅に軽減しつつ、筋骨の補助を行う最新の加護式サポーターです。
それと同時に、身体能力の出力は通常の30%ほどに制限されております!」
ロイドは、ふうん、と生返事をして足踏みを繰り返す。
「30%か……まあ、ちょうどいいかもね」
「とはいえ……」
腕を組むのは、王国騎士団第一部隊隊長、クレア=ヴァレンタイン。
「どれほどの効果があるかは、実戦で確かめるのが一番でしょう」
「つまり、手合わせってやつだな」
「はい。貴方が“動ける”かどうか、確かめさせて頂きます」
そう、これは“戦い”ではない。
勇者のリハビリ、サポーターの試運転、
そしてクレアの“リベンジ”を兼ねた、重要なテストだ。
「じゃあ、いくか」
ロイドが肩を回し、エクスカリバーを召喚する。
「適当に頼むぞ」
「了解しました。八割で行きます」
「ちょっと多くない?」
二人は静かに構えた。
そして。
「行きます!!」
クレアが踏み込む。
氷を纏った剣が唸り、ロイドへと迫る。
「おっと」
ロイドは軽やかに身を捌く。
最小限の動き。
だが、絶対に当たらない間合い。
「……さすが、膝が痛くないと楽だなぁ……」
呑気な声に、クレアのこめかみがピクリと動く。
——次の一撃、また捌かれる。
三撃目も、四撃目も、五撃目も。
「……ッ!」
クレアの額に汗が浮かぶ。
「技術者さん」
ロイドが観覧席に向かって声をかけた。
「これ、ほんとに30%出てる?」
「は、はい!理論上は!間違いなく!!」
慌てて返す技術者。
「ふーん……なんか10%くらいしか出てねぇ気がすんだけど」
沈黙。
「な、なんだと……!」
「バカな! 我々の研究に失敗など……!」
「……ま、待て!誰かデブに試したか!?」
「い、いや、デブにはまだ試してない……」
「もしかして……表面積の問題か!? 」
「くそっ! なんでもっとデブで試さなかったんだ!!」
ロイドはため息を吐く。
「……失礼だなあいつら」
クレアが一歩前に出る。
「……10%、ですか」
低い声が氷のように張り詰める。
「私が……たった10%の貴方に、押されていると?」
氷が咲いた。
それは一振りの剣から始まった。
クレアが地面を蹴り、鋭く剣を振り下ろす。
その軌跡に合わせて、空間が凍てつく。
瞬く間に氷柱が立ち並び、闘技場は銀世界へと塗り替えられていった。
「え?……やりすぎじゃない?」
ロイドが呆れた声を漏らす。
だが、口元は緩んでいた。
「これが、氷剣の女騎士……」
「魔族すら震え上がる“氷の制圧者”……」
観客席の騎士たちがざわめく。
17歳。王国騎士第一部隊隊長。
名門ヴァレンタイン家が誇る才女。
戦場では氷の悪魔と恐れられ、冷酷無比に敵を葬ってきた。
——そんな彼女が、いま、己の全力をぶつけようとしている。
「行きます……!!」
氷の剣が、百本。
それら全てが、ロイド一人に向けて放たれる。
「流石にやばいな……」
そう呟くと同時に、エクスカリバーが蒼白い輝きを纏った。
「うぉぉおおおお……っとおらぁ!!」
ロイドの剣が唸る。
一閃。
その一撃が、氷剣の群れを薙ぎ払った。
だが。
「まだです!」
クレアは止まらない。
氷が、無限に生まれるかのように押し寄せる。
ロイドは捌く。
受け流し、弾き返す。
だが、次第に呼吸が荒くなる。
「はぁ……はぁ……膝は良くても、息が切れるな……畜生……」
膝はまだ動く。
だが、長年の怠惰が蝕んだのは心肺機能。
体力が、続かない。
「ぐぅ……! だが、まだ……!!」
もう一度、踏み込む。
しかし、その瞬間——
「ピキッ」
不吉な音が響いた。
「おっとぉ……やばい。今のは心当たりがある音だわ……」
ロイドの額に冷や汗が伝う。
その隙を、クレアは逃さない。
「これで……終わりです!!」
クレアが振り下ろす巨大な氷剣。
まるで天から降り注ぐ刃そのもの。
観客席からも悲鳴が漏れる。
が――
「はぁ……はぁ……ったく……」
ロイドは右足を踏み込んだ。
ズドン。
石畳が砕け、凄まじい衝撃波が周囲を襲う。
氷剣の軌道が逸れ、その刃先はロイドの頭上を素通りしていく。
そして、ロイドのエクスカリバーがクレアの首元に寸止めで添えられていた。
「っ……」
クレアが目を見開く。そして……
「参り……ました」
ロイドがゆっくりと剣を下ろす。
クレアは唇を噛む。
剣を交えた感触は、はっきりと刻まれていた。
——届かなかった。
全力で、氷剣百本を操ってなお、
彼には届かなかった。
しかも相手は、30%以下に身体能力を制御されている状態で…
「私は……まだまだ、ですね」
顔を伏せたその声は、悔しさと無念さに滲んでいる。
「いや……そんなことないよ」
ロイドの声は、どこまでも呑気だった。
勝者としての余裕?
違う。これは、疲労困憊の男が、ただ本心を漏らしただけの声だ。
「……さ、酸素ボンベ……」
虚ろな目で呻く。
そして、限界は突然に訪れた。
「うっ……!」
胃袋が悲鳴を上げ、ロイドは膝をつく。
その巨体がぐらりと傾き——
「お……オロ、オロロロロ!!」
――ぶちまけた。
無慈悲な嘔吐物が、まっすぐにクレアへと降り注ぐ。
「……ッ!!?」
静寂。
氷の騎士、クレア=ヴァレンタインは、白銀の甲冑を……いや、全身を嘔吐物で染め上げた。
「ロイド様……」
「……ご、ごめんほんと……!」
「殺します」
氷の魔力が爆発した。
氷拳、氷槍、氷ラリアット、氷の鉄山靠。
ロイドの巨体が何度も吹き飛び空を舞う。
観客は誰も止めない。止められない。
ロイドはボロ雑巾のように地面に転がり、かろうじて呟いた。
「……リハビリって……こんなんだったっけ……?」
視界がぼやける中、氷の女騎士が、冷酷に言い放った。
「死ね」
ロイドが返す間もなく、またゲロがこみ上げた。
観客席の誰かが、そっと呟く。
「医務室の準備を……」
小説書くの初めてです!
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