伝説の勇者の実力!
最近太ってきたから、太っていてもかっこいい大人を描いてみました!
とりあえず3話まで一気に載せてみたのでぜひ読んでみてください!
魔王軍との戦いは、もはや“戦争”の形をしていなかった。
王都前線。
砦と呼ぶにはあまりにも心許ない石壁の上で、
王国軍の兵士たちは、死んだ魚の目で震えていた。
敵は約五千。
ワイバーンや鳥類など空を飛ぶものさえいる。
それに対してこちらは千。
勝算など、初めからない。
だが、それでも。
兵士たちは、歯を食いしばって剣を握っていた。
「……勇者様が、来てくれるはずだ……」
誰かが、呟く。
「かつて、あの魔王を討った英雄だ……」
「そうだ、あの方が来れば……!」
「きっと、この窮地を救ってくださる……!」
それはもはや祈りだった。
剣は折れ、盾は砕け、心はもうとっくに限界を超えている。
それでも兵士たちは踏みとどまっていた。
“勇者”の名だけが、
彼らの心を、かろうじて繋ぎ止めていたのだ。
その時。
「皆、聞け!」
前線に響く、女騎士の声。
王国騎士団第一部隊隊長、クレア=ヴァレンタインが進み出る。
「本日ここに――かつて魔王を討った英雄、
ロイド=バルザックを召喚した!!」
沈黙。
そして、次第に沸き上がる歓声。
「やはり!」
「勇者様が来てくださる!!」
「これで……これで勝てるぞ!!」
兵士たちは、
もはや絞りカスのようなその身体に、最後の力を込める。
伝説の英雄が来る。
それだけで、再び立ち上がることができる。
そんな空気が、確かにそこにあった。
……だが。
ズリ……ズリ……
間抜けな足音が、その空気を粉々に砕く。
サンダル。
ジャージ。
寝癖。
立派な腹。
膝には、痛々しいほど分厚いサポーター。
「待たせたな」
--期待は。盛大に裏切られた。
その反動は、すぐに怒号となって返ってくる。
「フザけんなあああああ!!」
「どこが勇者だ!!」
「ただのデブじゃねぇか!!」
「こんなデブ連れてきて俺たちをバカにしてんのか!!」
「茶番にも程があるだろ!!」
罵声、罵倒、怒り。
それは、恐怖の裏返しだった。
“勇者”が現れるはずだった。
“伝説”が全てを救ってくれるはずだった。
だが目の前にいるのは、
どう見てもただの太ったオッサン。
怒りにすがるしか、兵士たちにはもう手段がなかった。
「やばい泣きそう」
目を潤ませ肩を落とした勇者がボソッと呟く。
その声を遮るように、クレア=ヴァレンタインが前へ出た。
「静まれ!!」
凛とした声が、怒号をかき消す。
そしてクレアは、表情を変えずに言った。
「勇者だからイケメンだと思っていたのですか!」
「太っていたら勇者だとは認めないのですか!?」
「そんなくだらない価値観は捨ててください!大切なのは--」
「この状況を打破できるかどうかです!」
沈黙。
……一瞬、時間が止まる。
ロイドの目が、ゆっくりと泳ぐ。
「すごい言うじゃん」
一周回って苦笑いを浮かべるロイドを他所に、クレアはやや得意げに頷いていた。
そして咳払いをして、
クレアはロイドの方を見る。
「やれますか?勇者様…」
真剣な眼差し。
「……まあ任せろって言っちゃったからね。やれるだけやってみるよ」
そう歩き始め、右手を前に出す。
「さてと……来い。エクスカリバー」
その瞬間、
ロイドの手の甲が青白く輝き、魔法陣が浮かび上がる。
蒼銀の剣ーー聖剣エクスカリバーが、現世に姿を現した。
「……マジか……」
「ホントに、聖剣だ……」
「伝説が目の前に……」
空気が変わる。
ロイドは、面倒くさそうに肩に担ぎ、
ずっしりと重たそうな一歩を踏み出した。
――ズドン。
たった一歩。
それだけで、石畳が陥没し、砂塵が舞い上がる。
だが、
ロイドはそのままゆっくりと剣を構えた。
両手で柄を握り、
背筋を伸ばし、
呼吸を整え、
重心を落とす。
その瞬間。
彼の身体が、静かに光を帯び始めた。
まるで、
埃を被った英雄譚が、
いま再びページをめくるように。
鎧も纏わず、
無骨なジャージに身を包み、
それでも――
間違いなく“勇者”と呼ぶに相応しい光景だった。
王国軍の兵士たちが、息を呑む。
「……あの男、本物だ……」
「行くぞ」
ロイドは静かに言った。
音が消える。
そして――
ズドォン!!
音速を超えた踏み込み。
その一閃は、世界を白く染め上げる。
聖剣が唸りを上げ、
魔王軍の先鋒を、まるで雑草の如く薙ぎ払った。
轟音。
閃光。
圧倒的な破壊。
沈黙。
「な……」
「な、なんだ今のは……」
「たった一撃で……!」
クレアが小さく呟く。
「これが……伝説の勇者……」
絶句。
だが。
その中心で。
「ぐおおおおおおおおおお!!!!!
膝が!!膝がああああああ!!!!!
アイシング!アイシング持ってこいぃぃぃぃ!!!!!」
地面に転がり、膝を抱え、
地べたを這い、情けない声を上げるロイド。
「湿布!て言うか医者!頼む!マジでやべぇぇぇ!!!
膝が変な方向に曲がっちゃったぁぁぁぁ!!!」
兵士たちは凍りつく。
「……え、アイシング……?」
「この状況で……?」
クレアは、冷徹に言い放つ。
「……あの強烈な斬撃に踏み込み。おそらく体重が増えた結果、その負荷に耐えられなかったのですね」
「分析とかいらないからお医者さん呼んでぇぇぇ!!!!」
兵士「……でも、先鋒は消えたんだよな……?」
兵士「……間違いなく、あの男がやった……」
ロイドは息も絶え絶えになりながら叫ぶ。
「誰かぁぁぁ!!アイシングゥゥゥゥゥ!!!」
クレアは、表情一つ変えずに締める。
「これで、戦局は変わりました」
――王国軍、士気回復。
――魔王軍、先鋒壊滅。
王国を救った英雄は、
今、必死にアイシングを所望していた。
小説書くの初めてです!
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