魔王復活!伝説の勇者を探せ!
最近太ってきたから、太っていてもかっこいい大人を描いてみました!
楽しんで読んでください!
魔王の復活。
それは王国にとって、ただの災厄ではなかった。
過去に忘れ去られたはずの恐怖が、再び地の底から蘇ったという現実。
王都では鐘の音が止まらない。
人々は不安に駆られ、空を見上げ、色を失った未来を噛みしめる。
焦げた空、沈黙する兵士、震える民衆。
まるで、世界の終わりを予感させるようだった。
王もまた、玉座に沈んでいた。
王笏を握る指はかすかに震え、王の命令にしてはあまりにも弱々しい声が城内に響く。
「ロイド=バルザックを……探せ……」
それは命令というより、祈りに近かった。
ロイド=バルザック。
10年前。たった一人で魔王を討ち滅ぼした伝説の勇者。
だが、戦いの後、彼は忽然と姿を消した。
誰も彼の行方を知らない。
それでも王国は、彼を再び必要としていた。
そして、その探索を任されたのが、
王国騎士団第一部隊隊長、クレア=ヴァレンタインだった。
クレアは王命を受け、三ヶ月に渡ってロイドの行方を追った。
王国中を裏から表まで踏破し、あらゆる噂を拾い上げ、嘘と真実をふるいにかけた。
そしてついに――辿り着いた。
王都外れの森の中。地図にも載っていない、朽ちかけた木造の小屋。
その前に、クレアは立っていた。
国家の希望の住処とは到底思えないが、躊躇せず扉を叩く。
「………………」
返事はなかった。
だが代わりに、揚げ物の匂いが漏れ出してきた。
胸に不快な予感を抱きながら、クレアは扉を開けた。
そこにいたのは――
腹の出た中年男だった。
サンダル、ジャージ、寝癖、膝にはサポーター。
唐揚げをつまみ食いしながら、鼻歌を歌っている。
男は驚いた顔を向けた。
「え……誰?」
クレアは冷たく問いかけた。
「……貴方が、ロイド=バルザックですか」
無精髭と寝癖、覇気のない態度。
だが、男はあっさりと答えた。
「あー……はい。俺です」
「……嘘ですよね?」
「いや、マジで俺です」
クレアはため息すらつかず、無言で剣を抜いた。
「確認させてください」
「え、ちょ、確認ってお前――」
男の抗議を遮るように、クレアは踏み込んだ。
斬撃を、首元へ。
本物ならかわすはず。
偽物だとしても、この切迫する世界で勇者を名乗る不届きものが1人死ぬ。それだけの話。
だが結果はーー
「……え?」
クレアは床に伏せていた。
何が起きたか、理解できない。
ただ一瞬、男の姿が消えた気がした。
しばしの沈黙の後、クレアは立ち上がり、静かに言った。
「……少なくとも、実力においては、私より遥かに上。
貴方はーー確かに本物です」
「いやだから、ずっと言って――いててててて!!」
男――ロイドは、その場に崩れ落ち、膝を抱えていた。
「ぐおぉぉぉおおおおお!!膝がぁぁぁあああああ!!」
クレアは一歩近づき、冷静に問う。
「……まさか。その膝、魔王との戦いで受けた傷?」
ロイドは、やけに重たい顔をした。
遠くを見るその目には、かつての戦場が浮かんでいるようだった。
「ああ……そうだ。忘れもしねぇ。あれは10年前、魔王を倒した後の話だ」
クレアは黙って耳を傾け、
重たい戦争の話を覚悟していた。
――だが
「王から謝礼をもらってさ。とりあえず近くの屋台で焼き鳥を食べたんだ。
感動したね。この世には、こんなうまいもんがあったんだってさ」
「……焼き鳥を食べたことがなかったのですか?」
クレアの問いに、ロイドは頷いた。
「孤児だったからな。
それに、戦争が始まってからはろくなもん食べてなかった。
だから食べた。食べまくった。そしたら、まあ段々と太ってきてさ」
淡々と語る言葉は、次第にくだらない内容になっていく。
「そんなある日、友達にフットサルに誘われたんだ。
楽しかった。スポーツって、こんなに楽しいんだなって、はしゃいでさ。
で、つい楽しくなってオーバーヘッドキックにチャレンジしてみたんだけど」
ロイドは虚ろな目で、自分の膝を見つめた。
「その瞬間ーー俺は着地に失敗。全十字靭帯断裂。
俺の膝は、もう俺の体重を支えきれなくなっていたのさ……」
場違いなほど静かな時間が流れた。
ロイドは、しんみりと吐き捨てる。
「……だからよ。俺のことはもう諦めてくれ。
俺はもう、フットサルもまともにできない体なんだよ」
クレアは表情を変えずに言った。
「いえ、王命ですので連れて行きます」
「……え、マジ?」
「はい。王命には逆らえませんので」
ロイドはうなだれた。
「でも、俺、戦えないよ?」
クレアは冷たく切り捨てる。
「いえ、一瞬とはいえ王国騎士戦士長である私を倒しました。
少なくとも、一瞬なら私より強いはずです」
ロイドは唐揚げを口に放り込みながら、情けなく呟いた。
「……マジかよ」
その後、クレアは無言で、勇者が唐揚げを食べ終わるのを待った。
「……終わりましたか?」
「……うん」
「では、行きます。王の元まで!」
「……はい」
クレアは、膝痛勇者を連れて王都へ向かった。
小説書くの初めて!
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