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緋の泪  作者: ハル*
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正気か狂気か 7


三鬼にも二鬼にも明かさなかったが、六鬼はほんのすこしだけ嬉しかった。


三鬼が最後に頼ってくれたのが自分だということと、叶えられたのが自分だったこと。


常に自分の上にいた二鬼の存在に、きっとずっと勝てないとどこかで思っていた。


結果的には三鬼と共に生きることになったのは、二鬼。


が、三鬼の心を救えたのは自分じゃないかと思うことで、二鬼にひと泡吹かせた気になれた。


「ケンカをすることもなかったけど、負けたのに勝った気分だよ。二鬼兄」


飛び立った二人はもう見えない。


寂しさばかりのはずなのに、六鬼は口角を上げ、かすかに笑った。


二鬼に勝ったんだ、と。


「……さあ、仕上げだ。三鬼。みんなが悲しまないように、俺がみんなを夢の中へと誘っておくよ」


六鬼は初めて使う力をためらっていた。


三鬼も二鬼も、他のみんなも。


生まれ、関わってきた者たちがいたからこそ、今の自分たちだったはずと思った。


それは自分も例外ではなく、鬼と悪魔の間に生まれ、こうして生きているのもすべてが絡み合ってきたからだと思えた。


父親があの悪魔と出会ったことも。


自分が忌み嫌われる存在だったことも。


体内にいた母親の誘導によって得た、今の自分の力も。


三鬼に惹かれたことも。


二鬼が三鬼を愛していたことも。


二鬼と三鬼が想いの差はあれど、互いを求めていたことも。


そして、今、自分が選ぶ結末も。


「全部、どれが欠けてもダメなんだよ。三鬼」


三鬼の思いを聞き、六鬼は決めた。


二人を別の生き方で生かすことを叶え、二人に関わる記憶を全員から消すことを。


それはまさしく、「夢でも見ていたんじゃない?」と思えるように。


六鬼は、どんな形になろうとも、三鬼には生きていてほしかった。


そうして、三鬼を愛して、護り続ける意志を強く持っていた二鬼へと託すことを決めた。


自分には自分にしか出来ないことがあると気づいたから。


六鬼は俯き、指先でネクタイがあった場所を撫でる。


あの贈り物に裏さえなければ心底嬉しかった六鬼。


三鬼からもらったものはずっと持っていたかったが、決別の意味を込めて三鬼へと返した。


それは、自分もが彼らのことを忘れてしまうことを意味し、ネクタイがあることで思い出せないようにという予防線を張るということでもあった。


二人を忘れた後に、自分の傷を深めたくないという思いもあったのかもしれない。


「バイバイ、三鬼」


六鬼は顔を上げて、ふわりと天高く羽ばたく。


もうすぐで、生まれて十六年になるはずだった。


この魔法を使った後、自分がどうなるのかは不確かだ。


もしも、願いが叶うなら、と六鬼はどこまでも高い空の向こうに願う。


「家族になりたい」


鬼と悪魔の間に生まれたという理由だけで、家族であって家族ではなかった。


「この角さえなきゃよかったのに」


悪魔を表わすようなその角は、六鬼のコンプレックスの塊でもあったのだ。


「…………みんな。どうか幸せな夢を見て……」


魔法を使う瞬間、六鬼は思った。


今までのことと、これからのこと。


みんなにとって、どっちの方が悪夢なんだろうと。


でもそれはそれぞれがこれから変えていけばいいのかもと自分を慰めて、六鬼は魔法を発動した。


「ナイトメア・フルボリューム」


六鬼の目尻から、涙がこぼれた。


まるで血の色のような、緋色の泪が、たったひとつだけ。


悪夢という名の魔法は、純白の紋章を大きく広げ、そこからあたたかな光を発した。


この世をすべて包み込んでいくように、大きく、あたたかく……。


そのあたたかさは、六鬼が亜空間に行く時に感じるあたたかさに似ていた。




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