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緋の泪  作者: ハル*
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願望と失望と 1


 鏡を見、思わず顔がゆるむのをごまかせない。


「今からバトルだってのに、こんなんじゃ変に勘ぐられちまうな」


ネクタイをいつも着けててほしいという三鬼の願いを、六鬼は素直に叶えていた。


寝るとき以外、とにかく着けている。


バトルでネクタイが綻びた時には、言わずとも三鬼が離れにやってきて繕ってくれた。


その思いに応えるべく、六鬼もいつも傍らにネクタイを置いていたのだ。


亜空間へと身を隠す時にもそれは六鬼のそばにあった。


独りになりたくて行くはずのその場所ででも三鬼を感じられるような気がして、自分の中の矛盾に気づきつつもそれを離すことはなかった。


「急がなきゃ」


離れから、みんなが待つ場所へ。玄関で靴を履き、もう一度鏡を見る。


「……よし」


外に出たと同時に、六鬼は空を舞っていた。


これも鬼にはない力。


悪魔のように羽はないが、不思議と生まれてすぐに空を飛べていた。


胸元には、チェーンにぶら下がった大鎌のペンダントトップ。


ペンダントトップは悪魔である母親の遺品で、どんな時も着けていた。


その大鎌は、バトル時には規格外の大きさへと変化し、まさしくそれで刈るように悪魔らを狩ってきた。


ヘブンズドアを使うまでもない時など、それでみんなを護ってきた。


他の誰も、鎌の大きさを変えることは出来ない。触れることも、叶わない。


つまり、武器として使えない。


これもまた、六鬼だけのものである。


“六鬼だけ”


その言葉を極端に嫌うものがいないわけではなく、六鬼はその存在に気づいていても知らぬふりをしていた。


それは、生きるためでもあり、いろんな均衡を保つためでもあった。


自分が頼られて、護って、崇められて。


必要だといわれるその真裏のどこかで、自分を嫌う者がいる。


生まれ、生きて、死んで。


その間出会ったすべての生き物が、自分に好意を寄せてくれるなどという甘い考えは、十歳の時に捨てた。


「うわああああ」


今日も彼は大鎌を振るい、悪魔たちを狩っていく。


「ぎゃあああああああ」


血しぶきが吹きあがるのを見下ろし、六鬼はため息をついた。


「また数増えてきてんじゃねえかよ。今日はこっちじゃ埒が明かねえじゃん」


呪文を使った夜は、必要以上の疲労感が襲う。そして、副作用のようなものも。


本当はあまり魔法を使いたくない六鬼だが、戦況を考えるとそうも言っていられない。


「一鬼姉ーっ。どうする?」


上空から姉に向かって話しかけると、どこか怪訝な顔つきでこう返した。


「こっちは撤退する。範囲が広いけど、あんたなら何とか出来んでしょ?」


姉のそばにいる父親へと視線を動かすと、ちらりと六鬼を見ただけで自分らの場所へと向かって歩き出していた。


「わかった、やっとくよ」


みんなを生かすための行為なのに、受け入れられていない気になる。


ただ、使われているだけなんじゃないかと錯覚しそうな思いが六鬼の胸を満たしていく。


大鎌を小さくし、チェーンへと戻す。


(三鬼姉)


ネクタイと一緒に、胸元に存在するそれを、ぎゅっと拳にして握る六鬼。


「ここ片付けたら、褒めてくれるよな?」


ささやかな願いを込めて、拳の中のネクタイへと呟く。


そのままひたいを拳に付け、目を閉じた。


「ふう……」


ゆっくりと息を吐き出し、目を開く。


眼下に残る悪魔と、自分と同じように宙に舞う悪魔を見やる六鬼。


「手加減しねえからな」


空へと向けられた彼の手から、紅の紋章が放たれる。


それはいつもの数倍の大きさにまで広がり、大空に浮かび上がった。


「ヘブンズドア・デスレベル」


ブゥ……ンと振動音がし、紅の紋章が妖しく光る。


「いっけぇええええ」


彼が手のひらに力を込めた途端、紋章から閃光が放たれ、その場にいる悪魔らを包み込むようにまぶしく光る。


「うああああああ」


「ぎゃあああ」


焦げながら地上へと落下していく悪魔たち。


「あーあ。また力ついちゃってんじゃん」


力がつけば、また自分を必要としてくれる。


のに、どこか苦しい。嬉しくない。複雑な気持ちばかりが、六鬼を満たすだけ。


「結構減ったよな、数」


ふらふらしつつ、帰路へとつく六鬼。


晴れない心を抱えたまま、三鬼が待っているだろう離れへと戻るしかない。



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