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緋の泪  作者: ハル*
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秘密の恋心と言えないチカラ 3



「三鬼姉。さっきからなにしてんの?」


さっきまで勉強を見てくれていた三鬼が、一息ついてから何かを始めたまま勉強が再開せず暇になっていた。


「うん、ごめんね。ちょっと」


「返事になってないって」


「もうちょっとだから」


寝転がって本を読む六鬼に背を向けたっきりで、三鬼は何かをしていた。


「見せてっていってんのに、見せてくんねえし。……家族には隠し事すんなって言ってんの、自分じゃん」


普段そう言い聞かされていた言葉を、ここぞとばかりに投げかけてみたものの三鬼の反応は変わらない。


「もうちょっとだから、ね」


何がもうちょっとなのか、三鬼からの返事の中に一切答えはない。


「なあ、三鬼ねえー」


昔のように甘えた声色で言いながら、その背中を六鬼は指先でつつく。


「ひゃあっ。くすぐったいよ、もう。やめてよ、六鬼」


六鬼は背中が嫌いだ。


三鬼が本宅に戻る時、いつも見送っているものだ。


その背中はまるで、自分を拒絶されているようで好きになれない。


「……なんだよ。勉強するわけでもなく、俺の部屋でなにやってんだよ」


寂しさだけが募り、六鬼はベッドに移動し壁に向かって寝転がる。


背中合わせの二人。より距離を感じるのに、六鬼はそうしないではいられなかった。


「…………よっし、でーきた」


うとうとしかかった頃、三鬼のその声がした。


「ああ?」


目をこすり、体を反転させると驚くものが視界に飛び込んできた。


「六鬼ー」


視界いっぱいの三鬼の顔。


「うわわっ」


一瞬鼻先をくすぐった甘い香り。寝返りの勢いをつけすぎていたら、アレをしていたんじゃなかろうか。


「あ、あっぶねえな」


触れそうになった唇。六鬼の心臓は今までになく早く脈打っている。


「なにが?」


きょとんとした表情で、六鬼との距離をそのままにする三鬼。


六鬼は動くことも出来ずに、視線だけを外した。


「う、うるせえよ。で、なにが出来たって? 俺のことほったらかしにして、なにやってたんだか」


その態度は子供のようだと自覚していた。


実際どこかまだ幼いからこそ、誰からも子供扱いをされているんだと感じていた。


「ほったらかし。……ぷっ。なに? 寂しかったの? ほんと、昔と変わらないんだから」


言いながら三鬼が体を起こして、六鬼に向かってなにかを押しつけた。


「ん?」


真っ黒な物体というか、細長い布。


「なんだこれ」


指先でつまみ、そのまま手を目の高さまで上げてみた。


「あ」


ネクタイが目の前にぶら下がってる。いつも着けているものに酷似したタイプのネクタイが。


「ここ、苦労したんだから」


顔を寄せてくる三鬼。


(うわっ)


ドクンと大きく打つ心臓の音を聴かれないことを、六鬼は願う。


「こ、ここって?」


なんでもなさげに、質問をする。すると三鬼はネクタイの下方をへと指先を動かした。


「ほら、これ。見憶えない?」


自分が着けているネクタイは、真っ黒なネクタイに十字架の飾りがついている。


その十字架がぶら下がっている位置に、何かの模様が刺繍してあることに気付いた。


「なんだこれ、クモの巣?」


そう見えても仕方がないような刺繍である。


決して下手ではないのだが、刺繍が細かすぎたのだろう。六鬼いわく、クモの巣に似ていた。


「違うわよ。っかしいな。ちゃんと縫ったのに」


2センチほどの直径の刺繍の真ん中には、六鬼の角に似た小さな石が付いている。


それを囲むように、放射線状の模様が刺繍されていることは認識できた。


「贈り物をした相手に、そのネタバラシをしなきゃいけないって切ないなあ」


どこか拗ねた口調で三鬼は説明を始める。


「これ、ヘブンズドアの紋章に似てるでしょ? まわりに浮かび上がってる文字自体は知らないけど、それっぽく縫ったのよ。どう?」


そういわれれば、紋章と言えなくもない。のだが、やはりクモの巣にしか見えない。


「まあ、見えるっちゃあ見える……かな」


ごまかし、それだけ言葉を返す六鬼。


「でしょ? 見えるわよね? あ、この石はおまけね。なんかかっこいいなあって思って、付けちゃった」


「ふうん」


三鬼に倣って、六鬼もその刺繍を指先でなぞってみる。


「今日、なにもないじゃん。イベント。なんでくれたわけ?」


嬉しいと素直には言えない。


三鬼からの贈り物の後には、なにかしらの対価を求められることがあるからだ。


家族にはわがままを言わないらしい三鬼なのだが、なぜか六鬼にはいろいろと無理難題を言ってくることが多い。


そういった部分に関しては、三鬼の双子の妹・四鬼と似ているのかもしれない。


「んー? イベントがなきゃ、贈り物をしちゃいけないわけ? 誰かがそう決めたの?」


ふんわりと微笑む三鬼に、なにも返す言葉が見つからなかった。


苦笑いをし、ネクタイを今着ているシャツに結んでみる。


「どう?」


照れくさそうに三鬼に聞くと、本当に嬉しそうに笑い、抱きついてきた。


「うん。最高にかっこいい」


あどけないその抱擁に、抱きしめ返したい気持ちを胸の奥にしまい、六鬼は囁いた。


「大事にするから」


「……うん。いつも着けててね、約束よ」


小さな拘束の約束。


だがそれも三鬼が与えてくれるものなら苦しいとも嫌だとも感じない不思議さを、六鬼は三鬼に触れるたびに感じていった。


幼い時から感じていた、不思議なあたたかさの感情を。




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