表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
緋の泪  作者: ハル*
26/41

それぞれが愛するモノ 4


「確かにいつもの父さんだろうね、あれは」


肯定と取れる返事をしているのに、どうにも会話が噛み合っていない気になってくる母親。


「三鬼は? 三鬼はどう思ったの」


「え、あたし?」


急に話を振られ、三鬼は横目で二鬼を見た。


何も言わないが、二鬼の目は落ち着いているように見え、三鬼はホッとしつつ口を開いた。


「匂いが違うのと、嫌なものが聞こえてきたの。あたしには」


「匂いと音っていうこと? よくわからないわ」


母親はさらに焦れて、声が大きくなっていく。


「母さん、声が大きいよ。もうすこし落ち着けないかい? 仮にも当主の妻なんだろ」


たしなめるような二鬼の言葉に、母親は不機嫌さを露わにした。


母親の自分が子どもから注意を受けなければならないのか、と思ったのだ。


「偉そうね、ずいぶんと」


気持ちがそのまま口をつく。


「母さんが余裕なさすぎなんだろ。そんなんじゃ、対策も打てないよ」


「なんですって」


母親の顔が、みるみる赤くなっていく。


「威張りたいなら、相応のことしてくれないかな。子どもとしてだけじゃなく、一族のものとしても付いていけないよ。そんな母さんには」


呆れた顔つきで言われた内容に、母親はさらに頭に血がのぼっていく。


「どうしたいの? 母さんは。自分の旦那だけが無事ならどうでもいいの? 一族にこだわってきたんじゃなかったの?」


あえて”自分の旦那”などという、他人行儀な言い方をしてきた二鬼。


母親は反射的に、二鬼の頬を平手打ちしていた。


乾いた音が廊下に響く。廊下の奥の方では、鬼たちのにぎやかな声が聞こえている。


「この家の温度差ったらないね。言っちゃ悪いけど、母さんが護りたいものが不確かすぎないか」


「温度差ってなんなの? じゃあ二鬼は何を護りたいの」


早口でまくしたてる母親に、二鬼はたった一言。


「三鬼」


それだけを返し、みんながいるだろう奥の部屋へと視線を向けた。


「それだけ? 三鬼だけを護られればいいというの?」


人には一族云々というくせに、と母親は思った。


「僕にはなにもないからね。父さんのような圧倒的な力も、一鬼姉さんのような闘いのセンスも、六鬼のような唯一の能力も。……それでもね、母さん」


廊下の奥から視線を三鬼へと移し、二鬼はどこか寂しそうに告げた。


「一番大事な人と一緒にいるための世界を作りたいんだ。だから僕は、何もないなりの闘い方をしてきたんだ。みんなの後ろに回ってね」


一番大事な人と言われた三鬼は、二鬼を見つめながらなぜか二鬼同様寂しそうな表情を見せた。


「あたしとそんなに変わらないじゃないの。偉そうな口きくから、どんな理由が出るかと思ったら」


「そうかもね。でも僕と母さんは立場が違う。背負っているものは一緒じゃないだろ」


「何を当たり前のことを言ってるの? 二鬼、あなたおかしいんじゃない?」


二鬼の心の奥を知らない母親は、ただイラついたまま奥の部屋へと歩んでいった。


「二鬼」


三鬼が俯いたまま、二鬼を呼ぶ。


その三鬼の両肩に、二鬼がそっと手を置いた。


「いいの? 本当にすべてが終わってしまっても」


苦しげに吐き出された呟きに、「いいんだよ」と二鬼は返す。


「それよりも顔を上げてくれないかな。……キスが出来ないよ」


ゆっくりと顔を上げる三鬼。その瞳は、すこし潤んでいた。


「泣かないで、僕の大事な三鬼。僕が護るから。三鬼が欲しいもの、手に入れてあげるから」


二鬼がそっと三鬼の唇に口づける。


そのキスを受け止めている三鬼の目は閉じることもなく、どこか遠くを見ている。


三鬼の心は、この場所ではないどこかへ向いている。


それを二鬼は知っているのか、二鬼の目尻から涙が一つこぼれていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ