歪んだ愛情と重ねられた伏線 3
小さな六鬼に、三鬼が闘いにおいて必要なことを伝えていく。
家族の誰もが六鬼を避ける中で、三鬼だけが六鬼と積極的に関わっていく。
「お姉ちゃんはどうしてぼくに優しいのかな」
無垢な質問に、三鬼はこう返す。
「そうね。六鬼が強いって、お姉ちゃんわかってたからかも」
「じゃあ、ぼくがもっと強くなったら、もっと好きになってくれる?」
「もっと?」
「うん。ぼくもっともっと、強くなるんだ」
こぶしを握り、力を込める六鬼。
「強くなって、あたしを護ってね」
六鬼のこぶしに、三鬼の手が重なる。
「大好きよ、六鬼」
頬に与えられた、初めてのキス。
六鬼はぽかんとしたまま、動けずにいた。
「今のは、みんなに内緒よ」
人差し指を立て、唇にあてて見せる三鬼。
六鬼は真っ赤になりながら、顔を上下に何度も動かすのが精いっぱいだった。
「じゃあね、六鬼」
六鬼の部屋から三鬼が出ていく。
三鬼が出て行ったドアを見つめ、三鬼の唇が触れた場所から手のひらを動かせずにいた。
廊下では三鬼が自宅へと向かっていた。
「強いもののそばにいれば、あたしは生きていけるんだもの」
リビングの手前で三鬼は、呼びとめられた。
「三鬼」
二鬼である。
「二鬼……」
三鬼の顔には戸惑いの表情が浮かぶ。
「どうして時間を守らないの」
そう言われ、時間を確かめる。
「ごめんなさい」
二鬼の部屋を訪れることになっていた三鬼。
謝る三鬼の肩を、二鬼が抱き寄せる。
「時間を守れないなら、解消する? 婚約」
三鬼の肩先がビクンと揺れた。
鬼の一族は親族のみでの交配がしきたりで、三鬼は二鬼と一緒になることが決められていた。
まもなく十歳になる三鬼は、鬼の世界では成人扱いをされることとなる。
二鬼は三鬼が十歳になれば、いつでも交配をしていいのだ。
「また六鬼のところにいたの?」
伏し目がちにする三鬼に、二鬼が微笑みかける。
「六鬼ばかりじゃなく、こっちもちゃんと見てほしいな。三鬼は僕のものなんだよ」
「……ごめんなさい」
「じゃあ、ごめんなさいの気持ちをちゃんと示してもらわないとね」
三鬼の肩を抱く二鬼の手に、ぐっと力がこもる。
「それと、三鬼が僕のものだって証をつけたいしね」
二鬼は笑っているが、明らかに怒りを露わにしていると三鬼は気づいていた。
「僕はとても寂しがり屋で、嫉妬深いんだ。一人にしておいたら、どうなるかわからないよ」
これは脅しだと、三鬼は唇を噛んだ。
「ごめんなさい」
二鬼の部屋のドアが開かれる。
三鬼はその部屋の空気にどうしてか慣れられずにいた。
「さあ入って。夕食まで時間がある。それまで、ずっと一緒にいてくれるよね?」
ドアが閉まり、二鬼は三鬼を背中から抱きしめる。
「僕を一人にしないでくれるよね? 三鬼」
抱きしめたまま、服に手をかけ始める二鬼。三鬼はその手を押しとどめることはできない。
なぜなら、それが男女関係にある鬼同士の約束になっているのだからだ。
女鬼は、男鬼に従い生きていく。そうすることで、生かされることを約束される。
その約束のこともあったが、三鬼は幼いながらに知っていた。
力のあるものについていれば、それだけで生きていけると。




