秘密の恋心と言えないチカラ 2
対悪魔への攻撃には、右手を使う。
しかし、実は左手からもあれと同等以上の攻撃を発することができるのである。
今の今まで言わずに生きてきたのには、相当の理由がある。
その理由とは、鬼と悪魔のハーフとして生まれたから故のこと。
悪魔への攻撃を持っているその反対で、左手から発するものには鬼を滅することが可能な攻撃力を持ってしまった自分。
自分が育った環境はさておき、生かされてきた生活の中には鬼がいた。
鬼に育てられてきた事実は、いまさら覆せない。
「育ての親や兄姉を殺すなんて真似、俺には出来ない」
その呪文の名は、『羅生門』
六鬼が力をつけるだけ、その威力は増していくのだと気付いたのは最近のこと。
悪魔の力を使うことができると知ったきっかけは、ほんの偶然。
離れにいても、さらに一人になりたい時間が増えた。
その思いが強くなったある日、自分の部屋に別空間を作ることが出来た。
そこは、鬼の場所でもなく悪魔の場所でもなく、誰にも見つかることがない亜空間。
そして、どんな攻撃をしても、どこも壊れやしない。
自分の力を試せる場所が出来たことで、自分の中にある力を確認出来た。
逆を言えば、悪魔の力が発動したせいでその場所が生まれたのである。
嬉しい反面、彼は複雑な気持ちにもなった。
自分の中に生まれたその力は、離れでの生活を余儀なくされたとはいえ、自分を生かしてくれた家族を滅することが出来るというものなのだから。
「三鬼姉……」
力が強大になっていくたびに、彼女への想いも膨れ上がっていく。
そして、自分に強く言い聞かせる。
「なにがあっても、この力を使うもんか。俺の力は、みんなを護るためだけにあるんだから」
家族を傷つける自分を想像したくはなかった。
自分の力によって、息絶える愛しい人を見るのも嫌だった。
それから彼はある指輪を手に入れ、それを左手の中指にはめるようになった。
「なあに、それ。新しいファッションだとか思ってるわけ?」
四鬼に小馬鹿にされても、彼は黙っていた。
その指輪についている石は、封印の石。
自らその力だけを封印することにし、その指輪の意味を誰にも明かさなかった。
唯一人だけは、その石の存在を知っていたが、彼は先を見越し誰にも語らずにいた。六鬼同様に。
その石が何か分からないよう、六鬼は悪魔の力でその石の気配を変えて見せていた。
六鬼には、家族が持ちえない能力がどんどん増えていった。その変化の力もそのひとつ。
「俺の姿かたちも変えられたらいいのにな」
自分の角を好きになれない彼は、いつも願っていた。
鬼の角がほしい、と。
一人になりたいと思い、その力を生んだ自分。
離れに一人きりにさせられて、孤独感を抱えつつ育った自分。
それでも家族と同じものがほしいと願う自分。
滑稽だとどこかで思うものの、その欲求は変えられない。
家族と同じになりたい。というよりも、彼の欲求は、一つの場所へ向いていた。
「三鬼姉と同じ場所で生きたい」
純粋な想いを抱いていても、伝えることも叶わず。
そして、同じ方向へと歩いて行く人生も叶わない。鬼として一生を全うするという生き方は……。
家族として扱ってもらっていても、所詮忌み嫌われた命であることに変わりはない。
家族だというくくりだけで、決して鬼の一族という場所に生きているわけではないのだ。
「あー、退屈」
穏やかな日というのは久しぶりで、六鬼は退屈を持て余していた。