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青空と海と大地 ーそらとうみとだいちー  作者: 栗須帳(くりす・とばり)
第4章 新たなる挑戦

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022 女子会

 


 二人が向かった先は、近くの居酒屋だった。

 店に入ると青空(そら)は店員に声をかけた。店員はうなずき、奥の個室へと二人を案内した。


「ここ、よく来るんですか」


「うん、これでも常連。と言うか、他の店だと入れてもらえないことが多いから。飲む時はここって決めてるの」


「入れてもらえないって、青空(そら)さん、ブラックリストにでも載ってるんですか?」


「んな訳ないじゃん、なんでそうなるのよ」


 そう笑顔で突っ込む。


「見た目の問題だよ。40が目前に迫ってるのに、私は未成年にしか見えない」


 ああなるほどと、海は妙に納得してしまった。


「はいそこ、納得しないの」


「あはははっ……すいません、分かっちゃいましたか」


「未成年が煙草吸って酒飲んでる。店の人は分かっていても、他の客が気になって仕方がない。だからここで飲む時は、いつも個室に連れてかれる」


「だから今日も個室なんですね。空いてる席が多いのに、なんでだろうって思ってました」


「まあそれと、今日は色々話せればと思ってるからね。個室の方が都合いいんだ」


 その言葉に、海が肩をピクリとさせた。


「それって……どういう意味でしょう」


「ああ店員さん、とりあえず生ふたつで」


 手馴れた様子でそう店員に告げ、青空(そら)がメニューを閉じる。


「海ちゃんは嫌いなものとかある?」


「いえ、特にはないです」


「じゃあ店員さん、いつものようにおまかせで。予算1万ぐらいでよろ」


「分かりました」


 しばらくして、店員が付け出しと生ビールを持ってきた。


「それじゃあ海ちゃん、とりあえずお疲れ」


「お、お疲れ様です」


 そう言ってジョッキを重ね、二人がビールを口にする。


「うまい! この一杯の為に生きてるわー」


 青空(そら)が満足そうに笑顔を見せる。しかし海は落ち着かない様子で、「あはははっ、そうですね」と愛想笑いを浮かべた。


「久し振りに見たね、その作り笑い」


 青空(そら)がそう言って煙草をくわえ、火をつけた。


「え……」


「初めて会った時の海ちゃん、そんな感じだったから。あの時は思ったもんだよ。この馬鹿、また厄介事に巻き込まれたなって」


 その通りだ。そう思い、海が目を伏せる。


「でもね、あの日とまりぎで働く海ちゃんを見て。少しずつだけど、海ちゃんがどういう女の子なのか分かってく気がしたんだ。ああ、この子は何かに囚われて、ずっと足掻いているんだなって」


「……」


「そしてうちで働かせてほしいって言ってきた時、思った。大地と何かあったなって」


「……何も起こってないですけど」


「いやいや、男と女の関係じゃないよ。それだったらもっと分かりやすいから。そうじゃなくて、なんて言ったらいいのかな。少なくとも二人の距離が縮まったなって思ったんだ。それも大地からじゃなく、海ちゃんの方から一方的に」


「……」


 なんでもお見通しなんだな。この人に隠しごと、出来そうにないな。そう思った。


「おまたせしましたー」


「来た来た私の好物。海ちゃん海ちゃん、食べてみて。ここのだし巻き玉子、絶品だから」


「は……はい……」


 青空(そら)に勧められるがままに、海も口をつける。しかしほとんど味を感じなかった。


「そんなに身構えなくていいよ」


 青空(そら)がビールを飲み干し、意味ありげに微笑む。


「私はね、大地のお姉ちゃんだから。何とかしてあいつを幸せにしたいんだ」


 その言葉には、どんな意味が隠されているのだろう。そう思う海の手を、青空(そら)が握った。


「……青空(そら)さん?」


「私たちのこと、聞いたんでしょ?」


「え……あ、はい……すいません……」


「なんで謝るのよ。私がいいって言ったんだから、気にすることはないんだよ」


「そうなんですけど……でもあんな辛い話、聞いてよかったのかなって」


「真面目だね、海ちゃんは」


 二本目の煙草に火をつける。


「どこまで話したのか知らないけど、まああいつのことだ、淡々と語ったんだろうね」


「大地、それに青空(そら)さんも……大変な過去を背負ってるんだなって思いました。それと……」


「それと?」


「……私がどれだけ恵まれていたのか、どれだけ甘えて生きてきたのかが分かりました」


「それは違うよ」


「そう……でしょうか……」


「うん、そう。海ちゃん知ってる? 人ってね、幸せと不幸が平等に与えられているんだよ」


「……」


「確かに私たちは、普通の人たちが経験しないような出来事に巻き込まれた。それだけ見たら、私たちは誰よりも不幸に見えるのかもしれない」


「……そう思いました」


「でもね、それは間違いなの」


「どうしてですか? 私、両親からあんな目にあったことなんてありません。周りの人も温かい人ばかりで、この世界は優しさに満ちてるんだって思ってました」


「でも海ちゃんだって今、絶望してるんでしょ?」


 その青空(そら)の言葉に。

 息が出来なくなった。


「大地に……聞いたんですか」


「いいや、何も聞いてない。あいつは人のこと、べらべら喋るやつじゃないでしょ」


「だったらどうして」


「そんなの、見てたら分かるよ」


 そう言って微笑み、二本目のジョッキを空にした。


「うまい! 店員さん、生おかわり!」




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