022 女子会
二人が向かった先は、近くの居酒屋だった。
店に入ると青空は店員に声をかけた。店員はうなずき、奥の個室へと二人を案内した。
「ここ、よく来るんですか」
「うん、これでも常連。と言うか、他の店だと入れてもらえないことが多いから。飲む時はここって決めてるの」
「入れてもらえないって、青空さん、ブラックリストにでも載ってるんですか?」
「んな訳ないじゃん、なんでそうなるのよ」
そう笑顔で突っ込む。
「見た目の問題だよ。40が目前に迫ってるのに、私は未成年にしか見えない」
ああなるほどと、海は妙に納得してしまった。
「はいそこ、納得しないの」
「あはははっ……すいません、分かっちゃいましたか」
「未成年が煙草吸って酒飲んでる。店の人は分かっていても、他の客が気になって仕方がない。だからここで飲む時は、いつも個室に連れてかれる」
「だから今日も個室なんですね。空いてる席が多いのに、なんでだろうって思ってました」
「まあそれと、今日は色々話せればと思ってるからね。個室の方が都合いいんだ」
その言葉に、海が肩をピクリとさせた。
「それって……どういう意味でしょう」
「ああ店員さん、とりあえず生ふたつで」
手馴れた様子でそう店員に告げ、青空がメニューを閉じる。
「海ちゃんは嫌いなものとかある?」
「いえ、特にはないです」
「じゃあ店員さん、いつものようにおまかせで。予算1万ぐらいでよろ」
「分かりました」
しばらくして、店員が付け出しと生ビールを持ってきた。
「それじゃあ海ちゃん、とりあえずお疲れ」
「お、お疲れ様です」
そう言ってジョッキを重ね、二人がビールを口にする。
「うまい! この一杯の為に生きてるわー」
青空が満足そうに笑顔を見せる。しかし海は落ち着かない様子で、「あはははっ、そうですね」と愛想笑いを浮かべた。
「久し振りに見たね、その作り笑い」
青空がそう言って煙草をくわえ、火をつけた。
「え……」
「初めて会った時の海ちゃん、そんな感じだったから。あの時は思ったもんだよ。この馬鹿、また厄介事に巻き込まれたなって」
その通りだ。そう思い、海が目を伏せる。
「でもね、あの日とまりぎで働く海ちゃんを見て。少しずつだけど、海ちゃんがどういう女の子なのか分かってく気がしたんだ。ああ、この子は何かに囚われて、ずっと足掻いているんだなって」
「……」
「そしてうちで働かせてほしいって言ってきた時、思った。大地と何かあったなって」
「……何も起こってないですけど」
「いやいや、男と女の関係じゃないよ。それだったらもっと分かりやすいから。そうじゃなくて、なんて言ったらいいのかな。少なくとも二人の距離が縮まったなって思ったんだ。それも大地からじゃなく、海ちゃんの方から一方的に」
「……」
なんでもお見通しなんだな。この人に隠しごと、出来そうにないな。そう思った。
「おまたせしましたー」
「来た来た私の好物。海ちゃん海ちゃん、食べてみて。ここのだし巻き玉子、絶品だから」
「は……はい……」
青空に勧められるがままに、海も口をつける。しかしほとんど味を感じなかった。
「そんなに身構えなくていいよ」
青空がビールを飲み干し、意味ありげに微笑む。
「私はね、大地のお姉ちゃんだから。何とかしてあいつを幸せにしたいんだ」
その言葉には、どんな意味が隠されているのだろう。そう思う海の手を、青空が握った。
「……青空さん?」
「私たちのこと、聞いたんでしょ?」
「え……あ、はい……すいません……」
「なんで謝るのよ。私がいいって言ったんだから、気にすることはないんだよ」
「そうなんですけど……でもあんな辛い話、聞いてよかったのかなって」
「真面目だね、海ちゃんは」
二本目の煙草に火をつける。
「どこまで話したのか知らないけど、まああいつのことだ、淡々と語ったんだろうね」
「大地、それに青空さんも……大変な過去を背負ってるんだなって思いました。それと……」
「それと?」
「……私がどれだけ恵まれていたのか、どれだけ甘えて生きてきたのかが分かりました」
「それは違うよ」
「そう……でしょうか……」
「うん、そう。海ちゃん知ってる? 人ってね、幸せと不幸が平等に与えられているんだよ」
「……」
「確かに私たちは、普通の人たちが経験しないような出来事に巻き込まれた。それだけ見たら、私たちは誰よりも不幸に見えるのかもしれない」
「……そう思いました」
「でもね、それは間違いなの」
「どうしてですか? 私、両親からあんな目にあったことなんてありません。周りの人も温かい人ばかりで、この世界は優しさに満ちてるんだって思ってました」
「でも海ちゃんだって今、絶望してるんでしょ?」
その青空の言葉に。
息が出来なくなった。
「大地に……聞いたんですか」
「いいや、何も聞いてない。あいつは人のこと、べらべら喋るやつじゃないでしょ」
「だったらどうして」
「そんなの、見てたら分かるよ」
そう言って微笑み、二本目のジョッキを空にした。
「うまい! 店員さん、生おかわり!」




