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ある人のお話

作者: 小林 世飛

どうも読みにくいかもしれませんが最後まで読んでいただけると幸いです。


今日も1日疲れたなぁ…

そんなことを思いながらいつもの通勤バスに揺られていた。


オレンジ色の夕日が僕の右頬を照らしている。

疲れた僕の身体にはとても心地のいい光だ。


眩しさに目を細め、そのまま眠ってしまおうかと思っていたところでプシューという音を立ててバスが停まった。



そういえば今日はずいぶんバスが空いている。


いつものこの時間だったら帰宅ラッシュで少なくともバスの三分のニをしめているというのに、今日は見るところ僕しか乗っていないようだ。



そして静かにバスの扉が開き、人が一人、また一人と中に入ってきた。


僕のようなサラリーマン風の男に、おばあさん、小さい子ども連れの親子、それから学生服をきた男の子が二人。

次々と乗り込み各々あいている席に座った。



おや…?



何か今違和感を感じた。一体なんだろうか…



ぐるりとバスを見回す。これといって変わった様子はない。


先程乗ったお客がいる以外は…


しかし目を前に戻すとき、ふと通路を挟んで隣のサラリーマンが目に入った。



…あれ?

やっぱり何かおかしい。


サラリーマンは左手で携帯をいじりながら右手で頭を掻いていた。

…?右手?


僕は失礼ながらそこで彼を二度見した。

いやいや、おかしい。

あれは左手だ。


親指が外側ではなく内側についていて、小指は外側…間違いなく左手だった。


彼は左手で携帯をいじりながら左手で頭を掻いていた。

つまり両手が左手なのだ。



始めてみるその奇形に目を奪われていると視線を感じたのか、彼が顔を上げて僕の方を見た。


僕は慌てて視線をそらし、窓の外を見た。




世の中には色んな奇形がいるものだ。僕はじっと見てしまったことに罪悪感を覚えたが、きっと彼も色んなひとにああやって見られることに慣れているだろうと一人納得していた。




ピンポン

「次、停まります」



誰かが停まるボタンを押したようだ。

そこでまたバスがプシューという音を立てて停まった。



後ろから小さな足音とそれに合わせるようなもう一つの足音が聞こえてきた。


「さ、ここで降りるのよ。おいで」


そういって小さい女の子の手を引いて出口に向かう親子連れが横を通る…。


そこで女の子のポケットから何かポーチのようなものが落ちた。

しかしそれに気付かずに二人は出口に向かっていく。


僕は慌てて声をかけた。


「…あの!落としましたよ!」



するとその声に二人は同時に振り返った。

やはり親子だ。仕草や表情がとてもよく似ている。



「あら、どうもすいません!ほら、お兄ちゃんにありがとうは?」


女の子はちょこちょこ僕の方に歩み寄り小さい声で囁くように「ありがと」と言った。


僕はそっとポーチを女の子に差し出した。

女の子は僕に両手をさしのばす。



そこで僕はまた声もなく小さい悲鳴をあげた。


女の子の手は両方とも左手だったのだ。



僕が手をみたまま固まっていると、女の子はキョトンとした顔をして僕を見ていた。


そこでハッと我に返り慌ててポーチを手の上に置いた。

「あっ、ごめんね。もう落としちゃダメだよ」



女の子は大きく頷いてお母さんの手にしがみついた。




そこでまた見てしまった。お母さんの手も両手が左手だった。



もう気が変になりそうだった。僕の目がどうかしているのか?

見間違い?

いや、三度も見間違うか?



まさか…と思い、バスの中を見回した。


一番後ろの席で騒いでいる男子学生達が手を叩いて笑っている。


それもまた両手が左手だった。



前の席にいるおばあさんは杖を左手で握り、膝の上に置いている手も案の定左手だった。




一体どうなっているんだ。



どうしてみんな奇形なんだ。



僕がおかしいのか?

僕がどうかしているのか?



僕は今まで勘違いをしていたのか?

みんなが生まれつき両手が左手で僕がおかしいのか?


右手なんてもの最初から存在しないのか?



いやいや、そんな訳ない。


僕は右手を知っている。あるさ、


だってほら、僕の手は……





左手しかなかった。

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