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【05】オレがいないと眠れないくせに

 私は1人でお茶会を続けた。

 夕暮れが近い空を眺めるのも悪くない。


 ジョエルは私の背後に立ったままだ。


「ジョエル、少し私の秘密を教えてあげる。私、もうすぐデビュタントなの」

「はあ、存じ上げております」

「でね。そのまえに、お父さまに言うつもりなの」

「なにをでしょう」


「れ、レイブンお兄様と婚約したいって。そしてデビュタントではお兄様にエスコートしてもらいたいの」

「は……?」

「な、なによその態度は。 せっかく私の秘密を教えてあげたのに!」


 私はむっとした。でも何故かジョエルも顔が不機嫌そうだ。なんなのよ。


「いや、それはやめてくだ……やめたほうが」

「なんですって。また私がはしたないからとか、レイブンお兄様に釣り合わないとか言いたいの?」


 反対される要素はないはずよ。

 レイブンお兄様とは仲が良いし、あちらは身分が上。

 家門同士の仲が深まるメリットある結婚だ。

 

 年齢差も常識の範囲内だし。

 

「……。まあ、そうですね」


「なによ、その微妙そうな反応。 私のどこが駄目だっていうのよ」


 私は、テーブルに手をついて、ジョエルを振り返った。


「レイブン様がお探しなのは、学問の邪魔にならない女性では? あなたはなんていうか……人懐こい犬のようですし……」


「主を犬扱い!? 不敬罪ーーーーー!! あなたね、今日という今日は許せないわよ!?」


「どうしてです? 犬、可愛いじゃないですか。まあ、別に許さなくてもいいですが」


「なんですって! いい加減、牢屋に入れてあげましょうか?」


 そう言うとジョエルは、どす黒い笑みを浮かべて、皮肉を言った。


「……オレがいないと眠れないくせに」



「……っ」


 汚い!! 人がトラウマで眠れないことを逆手にとるなんて!

 しかも、小馬鹿にしたような目で私を見下ろして!!


 あの時助けてくれた優しい少年は一体どこへいったのよー!

 私が拳をブルブルして握りしめていると、彼は続けた。

 

「……それで、怒るくらいならトラウマをそろそろ治してくださいよ、ミルティアお嬢様」

「で、できるならそうしてるわよ!」


「オレ、最近できた彼女にまたふられたんですよね。原因はお嬢様」

「はい? こいびと?」


 急に話題を変えられた!

 話題泥棒!!


「はい。けどオレ、オレがいないと駄目になるお嬢様を優先して屋敷に留まらなければなりませんし……。あなた専属護衛ですから何事もあなた最優先。最初にそれは説明するんですけど最終的には彼女側が我慢できなくなって振られるんですよ。あなたのトラウマの話は口外できないし、したところで、彼女にとっては更に火に油注ぐでしょう。妙齢のお嬢様の手を毎晩寝かしつけで握ってるなど……」


「うあ!」


 毎晩手を握ってる、という言葉に私は赤面した。


 自分でもどうしようもないとはいえ、私も男性ジョエルに手を握ってもらわないと眠れないことは、かなり気にしている。


 眠りの魔法をかけられる人を探してはいるが、なかなかいないのよね。


 だって、私のトラウマが治るまで一蓮托生でそれだけのために屋敷に縛り付けられることになるから。


 その人がその他の仕事も請け負う使用人になってもいいなら雇えるだろうけど、そのあたりの調整が難しく見つかっていない。


 ――ジョエルも眉間にシワが寄っている。


 私の面倒を見るにあたって、そうとう不満があるんだろう……。


 理解はできる。


 私のせいで連れてこられて、なりたいわけでもなかった騎士にされてしまった平民、そして孤児だった少年。

  

「……まあ、オレの話はともかく」


「ともかくでいいなら、話しする必要あった!?」


「大事な話ですよ。お嬢様。例えばあなたの望み通り、レイブン様と結婚できたとしましょう」


「うん!」


「ゲンキンな……いきなり明るくなりましたね。そこで、オレはあなた達の閨に付いて行かなくてはならないんでしょうか」



 しーん……。



「いやあ!?」


 私は大赤面した。


 しかし、ジョエルの今言った事は――考えていなかった!


「ご結婚されたら、一晩通じて御夫婦で過ごされるべきだと思うのですが。この調子だと、夜の夫婦生活のあと、オレと手つないで寝るんですか? レイブン様はお嬢様のご事情をご存知ではありますが、それは許容していただけるんです? その時までに都合を合わせてくれる眠りの魔法の使い手が見つかればいいですけども。フラッシュバックによる発作も考えると結局オレに白羽の矢が当たるんでしょうねえ……」


 私は今度青くなった。


「そ、それは……」


 れ、レイブンお兄様なら、事情を知ってはいるし、理解は示してくださると思う。

 しかし、だからといって、心の底から快諾とはならないだろう。


 立場を置き換えて考えると、レイブンお兄様が「眠れないから侍女と手を繋ぐ必要があるんだ。別室で寝るね?」とか言われて、夫婦の寝室に一人きりにされたり、同室に侍女が呼ばれたとしても彼が眠るまで侍女がベッドの傍で手を繋いで控えてたら、泣くと思う……。

 

 

「しかも、レイブン様と婚約できなかった場合、どなたか外部の令息とご婚約して知らない家門へ嫁がれるわけですよね。そちらではことさら私の存在は冷ややかな目で見られるかと……。まず理解されませんよ。騎士と手をつながないと寝むれない妻だなんて。普通、愛人つれてきたとんでもない嫁って思考になりますよ」


 私は、しゅん……とした。


「ジョエルの言うこと、最もだわ。もっとオブラートに包んで言ってほしくはあったけど……」


「……ご理解頂けて幸いです。ですから、お嬢様、トラウマを治すか、それか――」


「わかったわ! 私、今日からトラウマを治すために頑張る!」


 ジョエルがなにかを言っている途中で、私はガタリと立ち上がって言った。


「あ……」


「ん? なに? まだ文句というかストレート過ぎる意見があるの?」


 私は口を尖らせた。


「……いえ。」

 

 ジョエルが珍しくいいかけた言葉を飲み込んだあと、咳払いした。

 

「しかし、トラウマ解消に本気になったのは良いことです。ずっと目を背けてたでしょう。ああそうだ。オレが急死することだってありえますしね」


 ……ジョエルが、急死。

それも考えたことなかった。


 ジョエルのストレートすぎる進言が連続して心が痛い。


「いや、死なないでちょうだい!? あなたは口は悪いけど、トラウマのことがなくても傍にいてもらいたいのだから!」


「そうですか。それは意外ですが、ありがとうございます」


「意外とはなによ。口喧嘩は多いけど、何年も一緒じゃないのよ。あなたは私がうとましいかもしれないけどね、私はあなたに感謝してるのよ、これでも」


「……へえ、そうなんですね」


 うとましいを否定しない!


 まあいいわ。

 私がトラウマを解消すれば、ジョエルの望み通り彼を解放してあげられるわけだし。


 しかし、どうしよう。

 トラウマ解消は、実は今までに何回か挑戦している。


 ジョエルの代わりに、侍女に手を握ってもらったり、お姉様やお母様のベッドに潜り込んでみたり。

 眠れるアロマを用意してみたり……。


 どれも上手く行かず、結局ジョエルを呼ぶ羽目になっている。


 でも、今回はレイブンお兄様との婚約がかかってる!

 頑張って見せるわ!



 ◆


 

「じょ、ジョエルありがとう……すまないわね……」

「まあ、初日は仕方ないでしょ」



 その夜、いきこんだ私は、ジョエルなしで眠ろうとした。

 けれどやはり、酷いフラッシュバック、震えに襲われ挙句の果てには過呼吸になってしまった。


 タイミングを見計らったジョエルが、入室してきて私の手を握ると、スッと呼吸が楽になった。


「明日からは、ジョエルに握っててもらう時間を減らす方法でやってみる」


「昔、それも失敗しましたよね」


「昔と違ってできるかもしれないから、試してみるわ! やるったらやる! それにこうやって努力していること、ジョエル、記録をとってちょうだい!」


「はい?」


「たとえ、トラウマをくせなかったとしても、この努力の記録を、お兄様への釣書へ添付てんぷするのよ!」


「……たくましい!?」


 ジョエルは珍しく少し笑って、承諾してくれた。

 しかし、私のトラウマは頑固で、なかなか上手くはいかなかった。


 そりゃそうか。

 そんなに簡単に治ったら何年もこんなトラウマ抱えてない。


 けれど、私のデビュタントは、着実に近づいてきていて、私はもうゴリ押しでお父さまに頼むことにした。


 それに……ジョエルじゃなくても、大好きなレイブンお兄様と一緒なら、眠れるかもしれないじゃない?


 

お読み頂きありがとうございます。

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