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燃える裏庭1

よろしければ読んで下さい。

 ある朝、雪子は学校の教室に入ると、いつものように友人と挨拶を交わした。

「ごきげんよう、真知子(まちこ)さん」

「ごきげんよう、雪子さん」

 萩原(はぎわら)真知子は、雪子が高等女学校に入学して以来の友人だ。おっとりしていて、どこか安心できるような雰囲気を持つ少女だ。少しウェーブがかったロングヘアが彼女の魅力を引き立たせている。

 「雪子さん、課題は終わりました?」

「ええ、何とか」

「さすがですね。私はまだ終わってないんですよ。提出の締め切りは明後日なので、何とかなりそうですけれど」

 雪子が課題を早く終わらせる事が出来たのは、正太郎に勉強を教えてもらったからだと思うが、それは言わないでおく事にした。

 真知子が自分の席に着こうとした時、一人の生徒とぶつかった。

「ご、ごめんなさい……」

謝ったのは、同級生の上村桜子(うえむらさくらこ)。今のは真知子の不注意だった気もするが、桜子は気が弱いのか、おどおどと言葉を発していた。

「こちらの方こそごめんなさい」

真知子が、にこりと笑って謝る。桜子は、会釈をして去って行った。

 「……桜子さん、成績は優秀なのだから、もっと堂々となさったら良いのに……」

真知子が、手を頬に当てて呟いた。


 三日後の朝、雪子はいつもより早く学校に着いてしまい、裏庭へと歩いていた。裏庭には小さな花壇があるので、花に水でもあげようと思ったのだ。

 歩いていると、どこからか焦げ臭い匂いがする。雪子が慌てて裏庭に駆け付けると、花壇に火がついていた。

 辺りを見回すが、すぐ水を掛けられるような状況にない。雪子は、人を呼ぶべく裏庭から引き返した。


 「今朝は大変でしたね」

放課後、真知子が雪子に話しかけてきた。

「そうですね。小火(ぼや)で済んで良かったですけど」

あれから、教職員たちの手によって火は消された。

「……でも、西岡先生が原因だというお話、本当なのかしら」

真知子が眉根を寄せる。

 火が消えた後、花壇の周辺から一本のタバコの吸殻が発見されていた。以前から、この学校の教師の一人である西岡健一(にしおかけんいち)が、朝に裏庭でタバコを吸う習慣がある事を多くの人が知っていた。そこで教職員たちは、西岡が今朝花壇でタバコを吸い、火の不始末があったと考えた。

 「ご本人は、否定されていると聞きましたが」

雪子が応えた。

教職員が西岡に話を聞いた所、西岡は今朝、遅刻ギリギリで学校に到着した為、裏庭でタバコを吸う機会などなかったと言う。

今朝、小火が起きる前に西岡を目撃した学校関係者はおらず、西岡の話を肯定も否定も出来ず、真相は未だ解明されていない。

 「謎ですね」

「謎と言えば、もう一つ気になる事がありましたね」

真知子が話を変えた。

 昨日締め切りだった課題。職員室に保管されているはずのそれが、今朝無くなっていたというのだ。せっかく課題を早く終わらせたのに。

「本当に、今日は変な事ばかり起きますね」

雪子は、顔をしかめた。


 その日家に帰って勉強をしていると、正太郎がやってきた。雪子に勉強を教えに来たの

だ。最近は雪子の自主性に任せているのか、来る頻度は少なくなってきているのだが。

 「そういえば、先日の課題はちゃんと提出したのか?」

部屋で勉強していると、不意に正太郎が聞いてきた。

「提出しましたけど、徒労に終わりそうです」

雪子は、保管されていた課題が無くなった事や、小火が起きた事を話した。

「……そうか。まあ、お前が怪我したとかじゃなくて良かった」

「……どうも」

正太郎に心配されると、嬉しいような心苦しいような、何とも言えない気持ちになる。

 勉強に集中できなくなった雪子は、蓄音機で『子犬のワルツ』を流した。この蓄音機、実は元々正太郎のものだった。

「それにしても、こんないいものもらって良かったんですか?この蓄音機、壊れてるとかじゃないですよね」

「いいんだ。音楽が好きだった父が買ったものだが、俺も母もあまり聞かないからな」

「ふうん……」

正太郎の父親は、貿易の仕事をしているようだが、忙しく、あまり家に帰ってこないらしい。


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