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【短編】一人きりは嫌だった ~頑張った男の末路~

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   お読みいただきありがとうございました。


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 一人きりは嫌だった。


 だから私は。


 だからこそ私は。


 頑張ったのだ。


 安住の地が欲しかった。


「けけっ結婚、してくださいっっっ」

 

 無様でもいい。


 たくましい結果が欲しい。


「ウフッ」


 ウフッ、ってなんだー―ーッ!


 心のなかで私は叫んだ。


 実際には、ひざはガクガク震えているし、体に力が入らないし、顔は暑いし、目は地面の構造を映すばかりで上げられないし、惨憺たる状態だ。


 笑え。


 笑いたくば、笑え。


「徹さん」


 彼女の、柔らかくかすれた声がした。


 答えを、答えをください。


 どっちでもいいから、早く答えをください。


 願わくばイエスが欲しいけど。


 早く答えをください。


 私の心の叫びは、彼女には届かない。


 言葉にすらしないのなら、彼女に届くはずがない。


 それでも分かって欲しい。


 察して欲しい。


 だらだらと流れる汗で感じて欲しい。


 私の本気を。


「徹さん」


 彼女は、再び名前を呼んだ。


 さっきよりも、もっとずっと小さな声で。


 私の名を呼んだ。


 名前を呼ぶのではなく、答えをください。


 いや、名前も呼ばれたいけど、答えもください。


 私はカラカラの唇を湿らせながら、言葉を発するために顔を上げた。


 そこに、彼女の顔はなかった。


 体ごと、私の腕の中に飛び込んできたからだ。


 涙で声にならない彼女は腕の中で何度もうなずいて。


 それが答えなのだと気付くまでには、少し時間がかかった。



 私は、小さな幸せを求めた。


 そして、それを手に入れたのだ。


 

 そこからは、急流をイカダで下るようだった。


 両家に挨拶へ行き、式の準備に新居の準備。


 上司や友人に冷やかされながらの結婚式。


 結婚したという実感もわかない内に子供が出来て。


 心配に心配を重ねた出産。


 こんな小さな命を大人に出来るのかと冷や冷やしながら寝不足と戦いつつの子育て。


 不況は何度かあったけれど、わが社はどうにか乗り切って。


 気付いてみれば、下の子は高校を卒業し、上の子は成人式を迎えていた。


 振り袖姿も艶やかに笑う我が子は、あの日の彼女の面影があった。


「この幸せが、ずっと続けばいいのに」


 つぶやく私に、彼女は言うのだ。


「いまの幸せが現実なら、歴史になってずっとずっと残るのよ」


 そう言って、笑う。


 私は一人きりではないし、今日も幸せで、ここは安住の地。


「わたし、調子が悪いの。病院へ行ってくるわね」


 今思えば、彼女がそう言ったのが境目だった。


 検査の結果は最悪で。


 後は、あれよあれよという間に終わっていく、命。


 彼女は死んでしまった。


 私だけを残して、死んでしまった。


 私はひざから崩れ落ち、その場に座り込んだ。


 もう二度と、立ち上がれない。そんな気がした。


 でも、私は生き残り。


 たぶん、明日も生きていく。


 そして、私は一人きりではなく。


 ここはきっと、安住の地。


 だからこそ世界は残酷だ。

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